歌舞伎座に、来年1月の新橋演舞場で、市川團十郎の『大星由良之助』のチラシが。


来年1月に、

『裏表忠臣蔵』が上演されることになり、團十郎が、大星由良之助を演じ。


この『裏表忠臣蔵』は、7代目團十郎が、『仮名手本忠臣蔵』全11段を『表』とし、一段一段それぞれに創作場面をつけて『裏』として、全22幕で、天保4(1833)年に河原崎座で初演したもの。


作者は、三升屋二三治(みますやにそうじ 1784~1856)。

彼は、江戸蔵前の札差の家に生まれ、1804年に家督を継いで。

歌舞伎が好きで、特に7代目團十郎を贔屓にし、さらには、自らも狂言作者となり。

しかし、やがて、江戸三座の関係者を『八百善』で大盤振る舞いし。そのことが問題となって、『廃嫡』のなってしまった、という人物。


閑話休題。


今回の上演にあたり、歌舞伎公式総合サイトの『歌舞伎美人(かぶきびと)』

には、

「このたびの上演では『仮名手本忠臣蔵』を表、現代に合う新たな形で練り上げられる場面を裏として、忠臣蔵の世界にさまざまな方向から光をあて、現代のお客様に古典の名作を、よりお楽しみいただけるよう、新たな『裏表忠臣蔵』をつくり上げます。」

とあります。


ただ、思うのですが。


團十郎は、この七月大歌舞伎では、『星合世十三團』を、十三役早替りと、宙乗りを売り物にして。

で、その元になっているのが、『義経千本桜』。

で、團十郎の、十三役の早替りに、宙乗りという、『獅子奮迅』の働きには、感心し。その体力、気力の充実には、驚かされました。

しかし、『義経千本桜』そのものに、真っ向から斬り込んでほしいと思った観客は少なくないのでは?

團十郎の、いがみの権太や、新中納言知盛を、じっくりと、『義経千本桜』という大きな物語世界の中で見たかったな、と。


で、今度、『裏表忠臣蔵』(『双仮名手本三升(ならべがきまねてみせます)』)。


今回、大星由良之助を、初役として演じる、と。


『仮名手本忠臣蔵』の世界に、なぜ、そのまま飛び込んでいかないのか。

と、思うのです。


確かに、『忠臣蔵』を知らない人たちが増えています。

歌舞伎座にも、多くの外国からの観客が訪れています。


昔は、年末となると、テレビや映画で、『忠臣蔵』が、繰り返して演じられました。


團十郎は、『伝統の継承』と『新時代の歌舞伎の創造』ということを、よく言葉にします。

ただ、それは、『伝統』を、『新時代の歌舞伎』という大義名分によって、変質させるということではないはずで。

團十郎には、『伝統』をしっかりと継承したうえで、それを踏まえて『新時代の歌舞伎』を創造してほしいと思うのです。


それは、團十郎には、限りない可能性が秘められていると感じるからです。


もっとも、『表』の『忠臣蔵』に、どのような『裏』の物語が貼り付くか、わかりませんが。

『仮名手本忠臣蔵』の『裏』に、『東海道四谷怪談』の物語が貼り付いているような、そんな『表』と『裏』であるならば、と、期待もしているのですが。


早替りと、宙乗りが『売り物』となったショウとしての『仮名手本忠臣蔵』、『東海道四谷怪談』ではなく、古典という基盤の上に立つ大星由良之助、民谷伊右衛門が見たいのです。


市川團十郎の言葉も、公式サイトにありました。
このたび新橋演舞場の来年1月公演にて『双仮名手本三升 裏表忠臣蔵』を上演させていただくことになりました。『仮名手本忠臣蔵』は古典歌舞伎の三大名作の一つと言われている傑作ですが、通し上演の機会は多くなく、「忠臣蔵」の世界に触れていただくことも少なくなっています。『双仮名手本三升 裏表忠臣蔵』は現代を生きるお客様にお楽しみいただきやすい形にして、名作『仮名手本忠臣蔵』の面白さを存分に味わっていただけるように創っていけたらと考えております。

また今回、外題に『裏表忠臣蔵』と付けさせていただいております。『裏表忠臣蔵』は、天保4年に七代目團十郎が、市川白猿の名で増補し、由良之助を演じ初演した作品です。表が通常上演されている『仮名手本忠臣蔵』、裏として創作場面をつけ、新たな形で忠臣蔵の世界を描き出し、当時大当たりとなったそうです。七代目のこの精神を受け継ぎ、表を『仮名手本忠臣蔵』、裏を現代に合わせた創作により、十三代目としての『裏表忠臣蔵』を描きたいと思っております。由良之助は初役となりますが、新之助時代に力弥で父の由良之助と共演しており、目にある父・十二代目の由良之助、祖父・十一代目の由良之助、代々の由良之助を感じながら勤めることができればと思っております。
来年のお正月、ぜひ新橋演舞場にお越しいただき、「忠臣蔵」の世界をご堪能いただけましたら嬉しいです。劇場でお待ちしています。