5月15日(水)、歌舞伎座で『團菊祭』。

その昼の部を見ました。


11時開演。


最初の演目は、『鴛鴦襖恋睦(おしのふすまこいのむつごと)』。


安永4(1777)年、江戸の中村座の顔見世で上演された、富本の浄瑠璃による『四十八手恋所訳』の『相撲』と『鴛鴦』の二場にわかれた作品。

ほとんど上演されなくなっていたのを、1954(昭和29)年に、6代目中村歌右衛門が自主公演の『莟会』で、『相撲』を長唄、『鴛鴦』を常磐津に作曲しなおして復活したもの。


『相撲』という現実世界。『鴛鴦』という非現実世界。


背景にあるのは、『曽我』の物語。

河津三郎と俣野五郎が、源頼朝の前で、相撲の勝負をして、河津三郎が

勝ったという物語。


ここでは、遊女喜瀬川に思いを寄せる河津と俣野。

もっとも、喜瀬川と河津の両思いに、俣野の横恋慕なのですが。


で、雄の鴛鴦の生き血を飲むと気を狂わせるということがあり、おさまらない俣野は、雄の鴛鴦を殺して、その生き血を酒にまぜて河津に飲ませ。


雄の鴛鴦を殺された雌は、喜瀬川に。

殺された雄の霊が、河津に。

それぞれ取り憑いて、俣野を責めさいなむという物語。


ただ、それらの展開を承知していないと、前半後半を通して、同じ喜瀬川、河津になってしまう。

逆に言うならば、その違い、切り替えがわかるようにしないといけないのですが。


河津三郎を、松也。

喜瀬川を、尾上右近。

俣野五郎を、萬太郎。


次の演目が、『四世市川左團次一年祭追善狂言』の、

『歌舞伎十八番 毛抜』。


小野小町の子孫である春道の館。

そこへ、文屋豊秀の家臣の粂寺弾正が、主君の命を受けて訪ねて来ます。主君豊秀の許嫁である、当家の姫君錦の前が原因不明の病に伏せっているので、その様子を見て来いと。

錦の前の、奇病。

それを、粂寺弾正が、見事に解決する物語。


粂寺弾正を、男女蔵。

腰元巻絹を、時蔵。

小野春風を、鴈治郎。

錦の前を、男寅。

乳人若菜を、萬次郎。


小野春道を、菊五郎。


小原万兵衛を、松緑。

秦秀太郎を、松枝。

秦民部を、権十郎。

八剣玄蕃を、又五郎。

八剣数馬を、松也。


後見を、團十郎。


粂寺弾正、錦の前の『奇病』の謎を、見事に解決する知恵者であるとともに、美しい若衆・秀太郎や、腰元・巻絹が目の前に現れると、ついついちょっかいを出してしまうという『スケベ心』の持ち主。しかし、それが、下品にならない『色気』が。

そこが、むずかしいところ。

一生懸命に演じている男女蔵に、その余裕が生まれて来れば、と。


それにしても、左團次追善狂言に対する『菊五郎劇団』の結束力。

男女蔵、男寅を支え。


菊五郎が、小野春道として、動かなくても、その存在感で舞台を締め。


弾正の花道を、後見として、團十郎が見まもり。


最後の演目が、『極付 幡随長兵衛』。

1881(明治14)年10月、春木座での初演。

作者は、河竹黙阿弥。

9代目團十郎のために。


この幡随院長兵衛、2代目吉右衛門の印象が強く残っていて。

人物としての、懐の深さ。そこから生まれてくる愛嬌。剛と柔。


しかし、團十郎の演じる長兵衛は、眼光鋭く、常に緊張感をたたえていて。それはそれで、おもしろく。

例えば、『湯殿』の場面での、その鋭く、突き刺さっていく言葉のエネルギー。團十郎という役者の資質と重なって、聴きどころになっていました。


舞台は、『公平法問諍(きんぴらほうもんあらそい)』の演じられている村山座。

酔っぱらいを追い払った長兵衛。

それを見ていた旗本水野十郎左衛門。


水野の率いる白柄組と、長兵衛を親分とする町奴の、日頃からの対立。


水野は、和解のために、長兵衛を屋敷に呼び出し。

湯殿で、長兵衛を殺害。


死を覚悟して、あらかじめ棺桶を用意して、水野の屋敷に出向いた長兵衛。


『村山座』

『花川戸長兵衛内』

『水野の屋敷』

『湯殿』

の四場。この四場の上演が基本となっています。


ただ、水野が長兵衛を呼び出すにあたり、最初に、水野の家老が長兵衛の家を訪れて、呼び出しを受けても、屋敷には行ってくれるなという懇願の場面、さらには、その家老が自ら腹を切り、主人に思いとどまるようにとの諌死の場面があるのですが。


水野は、長兵衛を殺害することによって、処罰を受けるということを承知しての行為。

その処罰とは、切腹。

承知していながら、抑え切れない激情。

長兵衛の、人物として認めながらも、それがためにかえって、生かしておくことが出来ない。


つまり、水野を演じるにあたり、その『激情』が描かれていないと。


水野を、菊之助。


長兵衛の女房お時を、児太郎。


子分たちは、歌昇、尾上右近、廣松、男寅、鷹之資、莟玉。

その子分のひとりとして、出尻清兵衛で、男女蔵が。

しかし、前の幕で粂寺弾正を演じた男女蔵が演じるには、何とも軽すぎる役。せめて、この月の興行では、もう少し考えてあげたら、と思ったのですが。


公式サイトから。

一、鴛鴦襖恋睦(おしのふすまこいのむつごと)
狂おしい情念、幻想的な舞踊

 源氏方の河津三郎に相撲で敗れた平家方の股野五郎は、約束通り遊女喜瀬川を河津に譲ります。しかし股野は、かねてからの遺恨を晴らすため、河津の心を乱そうと酒に雄の鴛鴦(おしどり)を殺した生血を混ぜます。やがて泉水に、雄鳥の死を嘆き悲しむ雌鳥の精が喜瀬川の姿を借りて現れると…。
 「おしどり」と通称される本作は、河津と股野が相撲の起源や技に託して恋争いを踊る「相撲」と、引き裂かれた鴛鴦の夫婦の狂おしい情念を見せる「鴛鴦」の上下巻で構成されます。鴛鴦の精が本性を現すぶっかえりなどの華やかな演出も盛り込まれた、幻想的で古風な趣あふれる舞踊にご期待ください。

二、歌舞伎十八番の内 毛抜(けぬき)
茶目っ気あふれる捌き役、粂寺弾正が活躍する人気作

 小野小町の子孫、春道の屋敷。家宝である小町の短冊が盗み出されたうえ、姫君錦の前は原因不明の病にかかり床に伏せっています。そこへ、姫君の許嫁である文屋豊秀の家臣、粂寺弾正が様子をうかがいにやって来ます。髪の毛が逆立つ姫の奇病を見た弾正は、手にした毛抜がひとりでに踊り出したことから、姫の奇病の仕掛けを見破り、両家の縁談を破談にしようとする陰謀をも暴き…。
 四世市川左團次の一年祭追善狂言として、所縁の出演者で名優を偲びます。知性と愛嬌を兼ね備えた弾正が活躍する、歌舞伎らしいおおらかさと喜劇性たっぷりのひと幕をお楽しみください。

三、極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)
信念を貫いた俠客の生き様

 大勢の客で賑わう江戸村山座。「公平法問諍(きんぴらほうもんあらそい)」が演じられる舞台に酒に酔って乱入した男を、江戸随一の俠客、幡随院長兵衛が追い払います。その様子を桟敷で見ていたのは、旗本の水野十郎左衛門。水野率いる白柄組と長兵衛を親分とする町奴たちはもとより犬猿の仲で、水野が長兵衛を呼び止めると、一触即発の事態に。騒動の後、水野の屋敷に呼ばれた長兵衛は、遺恨を晴らそうという水野の罠と知りながらも誘いを受け入れます。引き留める家族や弟子に頼みを言い残すと、長兵衛は水野の屋敷へ一人で向かい…。
 江戸時代初期、浅草花川戸に実在し、日本の俠客の元祖と言われた幡随院長兵衛を主人公にした物語のなかでも、本作は九世團十郎に当てて河竹黙阿弥が書いた「極付」とされる傑作。町人の意地と武士の面子を賭けての対決、柔術を組み入れた立廻りなど、江戸の男伊達の生き様を描いた世話物をご堪能ください。




このチラシを見ると、尾上松也の存在が、どのあたりにあるか、わかります。

チラシは、それぞれの役者の位置付けがわかります。








確か、左團次さんは、アルコールがダメだったと記憶していますが。