4月11日(木)、四月大歌舞伎、夜の部。


至福の時を過ごしました。


最初の演目は、『於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)』。


土手のお六を、坂東玉三郎。


鬼門の喜兵衛を、片岡仁左衛門。


この玉三郎と仁左衛門による、『於染久松色読販』。

すでに、何回か、公演を重ねて。


記憶するのは、1977(昭和52)年。

それから、41年ぶりの、2018(平成30)年。

そして、2021(令和3)年。

そして、今年の四月大歌舞伎。


美しさに、奥行きが生まれ。

物語のなかの人物が、生身の肉体を持ち。


この『於染久松色読販』。

4世鶴屋南北の作。

文化10(1813)年の3月の森田座。

演じたのは、5代目の岩井半四郎。

通称『お染の七役』というように、早変わりが評判となり。


しかし、やがて演じられることがなくなり、

1934(昭和9)年。

渥美清太郎の改訂。

前進座。

5代目河原崎國太郎により、復活。


以来、人気狂言に。


『お染の七役』というのは、

お染、久松、お光、竹川、小糸、お六、貞昌の七つの役の早変わり。


ただ、どうしても、早変わりの趣向に目が奪われ、物語が弱くなったと感じていました。


で、『柳島妙見』『向島小梅の莨屋』『浅草瓦町質見世油屋』。

早変わりは、ありません。


『柳島妙見』で、千葉家重宝の名刀義光と、その折紙についてふれ。

油屋の番頭善六(千次郎)と、丁稚久太(松三)。

その主人である油屋太郎七(彦三郎)。

山崎屋清兵衛(錦之助)。

ヨメナ売りの久作

が登場し、次の幕への入口が用意されて。


『向島小梅の莨屋』

ここから、お六、玉三郎の登場。

昔の主人竹川からの手紙を読み、紛失した名刀義光を買い戻すため、100両が必要となった苦境を知り。

ここには、旧主に対して、忠義が描かれて。

お六が、悪事をおこなうだけの『悪婆』でないことが知れ。


そこに、亭主の喜兵衛、仁左衛門が、舞台下手から。

なぜ、花道を使わないのか?


ここは、いかにも、南北の世界。


棺の死人(本当は、河豚にあたって意識をなくしただけ)を使っての、強請。


それが、『浅草瓦町質見世油屋』。


それにしても、玉三郎には、南北の台詞が、よく似合い。

その小気味いい、タンカ。


で、そのお六と、喜兵衛の強請がどうなったかは、見てのお楽しみ。


次の演目は、『神田祭』。


板付きの、鳶の頭の仁左衛門。


花道から、芸者の玉三郎。


惚れあうふたり。

その艶っぽく。色気にあふれ。


組頭のもとに、ふたりのことを挨拶に。

仁左衛門の、そのテレた仕草。


濃厚な時間。


そして、ふたりして、花道を。


仁左衛門と、玉三郎の共演。


そのために、いつもの3階席から、1階席に。

花道の、横の席に。


野暮ではありますが、

80歳の仁左衛門。

4月生まれなので、もうすぐ74歳となる玉三郎。


しかし、年齢を重ねることで、その艶っぽさは、内面からの美しさとなり。


至福の時を過ごしました。


ただ、ふたりの年齢、自分の年齢を考えると、次は、いつか。

それが不明で。

まさに、『一期一会』。


次の演目。

九條武子作の『四季』。

2世藤間勘祖の振り付け。


『春 紙雛』

女雛を、菊之助。

男雛を、愛之助。

ほか。

『夏 魂まつり』

亭主を、芝翫。

舞妓を、児太郎。

ほか。

『秋 砧』

若き妻を、孝太郎。

『冬 木枯』

みみずくを、松緑と、坂東亀蔵。

ほか。


ただ、それぞれに、美しい舞台、舞踊だとは思うのですが、そこに、『モノガタリ』を感じることが出来ず。


『神田祭』の、仁左衛門と玉三郎による、鳶頭と芸者には、ふたりの『関係』、そこにある『モノガタリ』を、濃厚に感じたのですが。


今回、久しぶりに、1階席に。


それで驚いたのは、花道を平然と歩く人が、けっこうな数、いたこと。

そのたびに、係が注意するのですが。

もちろん、うっかり、もありますが。

そもそも、花道を、土足で歩いてはいけないということが、どこかに消えてしまったのではないか、と。

もちろん、裸足でも。


前の歌舞伎座では、休憩時間などは、花道の部分を、絨毯で覆って、通行が出来るようにしていたのですが。