3月12日(火)、METライブビューイングで、『カルメン』を見ました。


時代設定を現代にして。


なんとも、刺激的な舞台。


キャリー・クラックネルの演出に引き込まれて。


そして、なによりも、27歳の、カルメン。

アイグル・アクメトチナ、そのエネルギーに圧倒され。


アイグル・アクメトチナが、最初に『カルメン』を演じたのが、ピーター・ブルック(1925~2022)の『カルメンの悲劇』。


『カルメンの悲劇』は、1987年3月、銀座セゾン劇場での日本公演、見ています。

客席よりも低く作られた土間の舞台。なにもない空間。

歌手が4人に、俳優が2人だけ。

もともとの、ビゼーのオペラが、およそ3時間。それが、80分となり。

ただ、あまりにも多くのものがそぎ落とされていて、舞台を見ての充足感は、なかったのですが。


その『カルメンの悲劇』が、アイグル・アクメトチナの、最初の『カルメン』。


21歳で、オペラの『カルメン』を。

そして、今では、押しも押されぬカルメンに。


今回の『カルメン』は、キャリー・クラックネルの演出により、設定が現代になり。


タバコ工場が、兵器工場。カルメンは、そこで働いていて。


で、兵器工場であるために、兵隊たちの警備。


ドン・ホセ(ピョートル・ベチャワ)は、その警備にあたる兵隊。


カルメンと、ドン・ホセが出会い、愛し合い。


ジョルジュ・ビゼー(1838~1875)の音楽が、感情に迫り。

耳に馴染んでいる音楽の連続。

気をつけないと、つい、くちずさんでしまいそうに。


作品として、物語自体の骨格がしっかりとしているので、時代を変えても、場所を変えても、人物の設定を変えても、物語は成り立つのです。


今回の舞台、そこに登場するカルメンを見ていると、「男を惑わす、罪な女」という印象はなく。

カルメンが、繰り返し口にするのが、『自由』という言葉。


男たちから、愛されることを望みながら、男からの『束縛』関係を求められると、男への愛は冷め。

ドン・ホセから、エスカミーリョ(カイル・ケテルセン)へと乗り換えて。


エスカミーリョ、闘牛士ではなく、ロデオの選手としての設定。


で、エスカミーリョが出場するロデオ大会に、彼に伴われて登場した時のカルメン、しかし、楽しそうではないのです。満ち足りてはいないのです。


幕間のインタビューで、演出のキャリー・クラックネルは、そのカルメンを、

『愛されたいと願いながらも、愛することを知らない』と。


そして、さらに、『カルメン』に登場する人物は、それぞれに、心にトラウマを抱えていると。


なぜ、ドン・ホセは、故郷、母のいる故郷に帰らないのか。帰れないのか。

故郷を離れ。軍隊に入り。そこを逃亡して、カルメンにしたがって密輸団に。

しかし、故郷にも、軍隊にも、密輸団にも、居場所も見出だすことが出来ない、ドン・ホセ。


そうした、人物の背景が見えてくる舞台。

人間関係が、その絡み合いが、とてもおもしろく。また、新鮮で。


現代に設定を移したことで、登場する人物との距離がなくなり。


展開も、おもしろく。


国境を越えて商売をする密輸団。

大型トラック(舞台上に)が、高速道路を疾走。

背後のLED電球が、点滅し、その疾走感を。

そして、タイヤも、激しく回転し。


また、ロデオ会場。

その巨大な観客席。

そこに多くの観客が。

ビール片手に、ポップコーンをつまんだり。


その観客席がまわり、その裏側で、ドン・ホセによる、カルメン殺しが。


などなど。


ミカエラを、エンジェル・ブルー。

MET の舞台で、彼女の姿を見ることが、多くなりました。


ただ、揚げ足取りなのですが、密輸団が高速道路を飛ばして、国境近くに。


ドン・ホセを追って、ミカエラが、そこまで訪ねて来て。

しかし、相当な距離。

そんな短時間で追いつけるのか?

そもそも、その場所を、どのようにして知ったのか?


もっとも、ミカエラの絶唱で、すべて、『よし』として。


こうした刺激的な舞台に出会うと、やはり、『なま』の舞台で見たいと。


ただ、来日公演。

チケット代が。


そもそも、その来日公演、めっきり減りました。

以前は、一年の間に、いくつもの歌劇団が来日して。

それを、次から次へとおいかけて。

で、相当額のチケット代が。


いい時代でした。


すべてが、泡となって。









上の『案内』、前回までは、各観客に配布していたのですが、今シーズンからは、入口に掲示される1枚だけに。