10月23日(月)、TOHOシネマズららぽーとで、ナショナルシアターライブ『善き人』を見ました。

電車を乗り継いで、はるばると来たのは、神奈川県内で、上映しているのが、ここだけなのです。


ナショナルシアターライブ、優れた舞台を紹介して。

毎回、楽しみに。


で、今回は、『善き人』。原題は、『GOOD 』。


C・P・テイラー(1929~1981) の作。


イギリスのグラスゴーの出身。

生涯で、およそ80の戯曲を執筆したとか。

ロシアからの移民の両親のもとに生まれ。

彼の代表作であるとともに、出世作が、この『善き人』。

しかし、その成功を見ずに亡くなり。


幕間に、彼を紹介する、15分程度の、よくまとめられたドキュメンタリーが上映されました。


C・P・テイラーの作品、はじめてです。


演出は、ドミニク・クック。

数々の賞を受賞し、映画監督としても知られています。


主人公は、ジョン・ハルダー。

ドイツ文学の研究者であり、大学で教えるかたわら、評論や小説を執筆して。

デヴィッド・テナントが演じて。


彼を取り巻く人物たち。

認知症で、目も患いはじめた母親、 家事いっさいをやらない、性の関係もなくなった妻のヘレン、大学生で彼を慕うアン、彼の唯一とも言える友人でユダヤ人の医師、少佐などなど。

それを、エリオット・リーヴィーと、シャロン・スモールが、演じ分け。


ラストの場面を除いて、その3人の芝居。


壁に囲まれた狭い空間。


3人は、舞台に、出ずっぱり。


例えば、ジョンが、妻のヘレンとやり取りしている時に、もうひとりは舞台上に動かずに。

ただ、映像なので、カメラは、ふたりを追い、クローズアップし。

そのために、舞台全体が視界に入ってこないという、もどかしさがあります。


しかし、舞台上で行われる、『場面』『人物』の切り替わり。それが、エッジが効いていて。

『エネルギー』があふれて。


もちろん、俳優の実力なのですが。

そして、演出。


ジョンが、母親をモデルにして書いた小説を、ヒトラーが読み、気に入り。

どこが気に入ったのか。

それは、『安楽死』を描いていたから。


ジョンは、その『安楽死』をテーマとした、今度は論文を書くように命じられ。


それは、ナチスが、障がい者や、ユダヤ人たちを安楽死させるための『根拠』として利用するため。


1933年頃から、ジョンの内部に音楽が聴こえてくるようになり。

それが、冒頭にあり。しかし、そのこととナチスの勢力拡大と関係があるかどうか、とされ。


それは、さまざまな音楽で。

実際に、舞台上に流れ。


『音楽』への造詣が深ければ、どのような音楽が聴こえているのか、そのことにより、『意味』を理解することが出来るのですが。


ジョンは、生きていくために、ナチスに入党し。

親衛隊に所属し。

教養あるジョンは、ナチス幹部に気に入られ。


やがて、1938年11月。『クリスタルナハト(水晶の夜)』。


妻のアン(その時は、ヘレンと別れて)が、

私たちは、善き人であると、ジョンに言う場面もあります。


確かに、ジョンは、個人的には、ユダヤ人に対しての排斥意識はなく。

音楽が聴こえてくることを相談したりする、ユダヤ人医師は、ジョンの唯一の友人。

その友人が、ユダヤ人排斥運動の激化の不安を口にした時、ジョンは、ドイツにおいては、社会的にも、経済的にも、ユダヤ人の存在は不可欠なものになっている。ユダヤ人排斥の『熱狂』は、そのうちにおさまると。


教養もあり、理性的で、それなりの良心も持ち、また、ユダヤ人に対しての特別な感情は持っていないジョン。

しかし、その『善き人』が。


親衛隊の制服を着て、彼が降り立ったのが、アウシュヴッツ。


舞台の背面の壁が分かれて、

囚人服のバンドが、音楽を奏で。


それまで、ジョンは、音楽は耳に聴こえてくるが、バンドの姿が見えないと繰り返して。

しかし、ようやく、バンドの姿を。

しかも、現実のバンド、現実の音楽。


この『善き人』であるジョンの姿は、いつの時代にも見ることが出来て。

それは、かつての日本にも、現代の日本にも。


そして、それは、我が身の姿とも重なり。


深い深い作品、重い重い作品。

しかし、魅力に満ちた作品。

『演劇』のおもしろさ、演出のおもしろさ を伝えてくれる作品でした。


この『善き人』は、映画化もされていて、ヴィセンテ・アモリン監督により、2008年に。

日本公開は、2012年。

見ていません。