12月6日(水)、文学座、『文、分、異聞』を、アトリエで、見ました。

15日(木)までの上演。


原田ゆうの作。


所奏の演出。


あの、有名な、伝説になっているとも言える、文学座の、分裂騒動。


1963(昭和38)年。


杉村春子体制に反発して、芥川比呂志、岸田今日子、小池朝雄、神山繁、加藤治子、仲谷昇、三谷昇、山﨑努、名古屋章、橋爪功らが脱退。

それが、第一次脱退事件。


同じ年、三島由紀夫の『喜びの琴』上演の是非をめぐっての対立から、三島由紀夫、矢代静一、松浦竹男、賀原夏子、丹阿弥谷津子、中村伸郎、南美江、村松英子らが脱退。

それが、第二次脱退事件。


この作品は、第一次脱退に大揺れの文学座が、三島由紀夫の『喜びの琴』の上演の是非で、もめている時を描きます。


1963(昭和38)年11月20日。

新宿区信濃町の、文学座のアトリエ。


つまり、『事件』の現場で、我々観客は、その事件の再現を見るのです。


冒頭は、三島由紀夫の『喜びの琴』上演に関して、その是非を判断する総務会の様子。

その場に居合わせなかった者のために、

研究生たちが、その様子を、それぞれの担当する人物を決めて再現するのです。

もちろん、観客は、それが再現であることを知らされません。


ということで、『生』の杉村春子が、舞台上にいるのです。


杉村春子がいたり、戌井一郎がいたり。

賀原夏子、長岡輝子、北村和夫がいたり。


その総務会のやりとりが、研究生たちによる再現であることが明かされ。


それを受けて、研究生たちの『論争』が始まります。


附属演劇研究所第1期生1961年。第2期生1962年。


彼らのなかに、江守徹、悠木千帆(樹木希林)、小川真由美、岸田森、草野大悟たちがいて。


誰が誰か、その人物を考えるおもしろさ。


『シン』という男性は、姓が『岸田』であり。

文学座において、『岸田』姓の持つ重さ、と台詞にも語られて。

何しろ、岸田國士は、久保田万太郎、岩田豊雄を発起人として、1937(昭和12)発足しているのです。

もっとも、岸田今日子は、第一次脱退のメンバーで、杉村春子は、終生、彼女を許すことはなかった、と。


また、『トオル』は、後に、ひとり芝居を演じたり、ハムレットを演じたり、やがて、文学座の代表となり、と台詞にあり。

となると、『江守徹』以外には考えられず。


文学座のアトリエ公演を見に来る客ですから、文学座のことも、その俳優のことも、また、裏事情にも通じていたりして、『軽い』笑いがもれます。


文学座。

さすがエリート集団で、発声も、滑舌もよく。

それが、体全体での怒鳴りあい。

その連続。

まさに、『怒劇』。

しかし、それは、単調にもなりかねず、また、観客としては、怒鳴りあいの連続に、疲れたりもします。


三島由紀夫の『喜びの琴』の上演の是非をめぐる『論争』。


文学座の劇団としての、存在のあり方。

演劇、芸術の、存在のあり方。

そして、個々の存在のあり方。


時代は、1963年。


樺美智子さんが、国会前で亡くなったのが、1960年6月15日。


背景には、『政治の季節』があると思うのですが。


研究生たちには、その『季節』の風が吹いているようにも思えず。


もっとも、研究生たちの、研究生としての『思い』は、生々しく。


劇団から、大量の中堅俳優の脱退。

そのことで、『役』を得やすくなるのではないか。

劇団が、消滅してしまうのではないか、その時には、脱退した者たちのところに行こうか。

そもそも、研究生であっても、小川真由美のように、テレビ出演している者がいる一方で、演出家に、その名前も存在も覚えられていない者がいて。

また、劇団の舞台に、すでに立っていたり、役が予定されている者もいて。


そうした研究生たちの『生態』。


生々しく、生き生きと。


それは、今も、続くことで。


つまり、『内幕』物としてのおもしろさ。

そさて、『青春』物としてのおもしろさ。


おもしろかったです。


ただ、繰り返しになりますが、アトリエという狭い空間。しかも、前から2列目の正面の席。


疲れました。

といっても、嫌な疲れではありませんが。








文学座のホームページから。


昭和38年、当時文学座文芸演出部に籍を置いていた三島由紀夫の新作『喜びの琴』上演の是非をめぐって劇団総会は紛糾していた…。 アトリエで起きたできごとをアトリエで体験していただきます。

昭和38年、年初に大量脱退者を出した文学座は、翌年の正月公演である三島由紀夫作『喜びの琴』上演の是非をめぐって、再び分裂の危機を迎えていました。アトリエで繰り広げられたドラマをアトリエでお客様に追体験していただきながら、演劇作品を上演することの意味や演劇活動に携わる者たちの葛藤を、表現芸術が「不要不急」という言葉で切り捨てられた今の日本で、改めてみつめ直す作品です。『青べか物語』『いずれおとらぬトトントトン』でアトリエに新たな作家を招き入れた所奏が、注目の劇団温泉ドラゴンに所属する原田ゆうと紡ぎ出す劇世界に躍動する、文学座の明日を担う若手俳優たちの熱い舞台にご期待ください。