10月22日(金)、歌舞伎座で、十月大歌舞伎の、第一部を見ました。
第一部の最初の演目は、『天竺徳兵衛新噺』から、小幡小平次を主人公とした『小平次外伝』としての上演。
『天竺徳兵衛新噺』は、2010年、3代目市川猿之助(現 猿翁)が選定した『三代猿之助四十八撰』のひとつ。
で、『天竺徳兵衛新噺』は、そもそも、4世鶴屋南北の『天竺徳兵衛韓噺』をベースとして、『彩入御伽草』の小幡小平次の怪談をない交ぜにしたもの。
(『筋書』の『解説とみどころ』を参照)
講談や歌舞伎には、「小幡小平次物」と呼ばれる系統が。
そのモデルは、
「実在の旅役者とされ、女房とその不義の相手によって殺害されたという話が巷間に伝わり」
「そうした伝説を基にした山東京伝の読本『復讐奇談安積沼』が人気を呼び」。
(『筋書』の『解説とみどころ』から引用)
鈴木泉三郎の『生きてゐる小平次』を原作とした、中川信夫監督の、同名の映画を、日本アート・シアター・ギルド(ATG)の配給作品として見たことがあります。1982年の公開。
で、今回は、大きな台本の改訂が。
1982(昭和57)年7月の歌舞伎座。
3代目市川猿之助(現 猿翁)による初演、幕間を除いて、4時間27分。幕間を入れると、5時間34分。
(『筋書』の『上演記録』を参照)
それを、上演ごとに短くし。
2012(平成24)年11月の明治座、現猿之助による公演では、幕間を除いて、2時間31分。幕間を入れると、3時間39分。
で、今回は、幕間なしの、1時間08分。
小幡小平次を中心にした、『小幡小平次外伝』。
もっとも、御家騒動やら、本筋を省いても、この『外伝』、男女の愛憎劇として、成り立つことは成り立っています。
で、4世鶴屋南北作『彩入御伽草』より
奈河彰輔 脚本
石川耕士 補綴・演出
市川猿翁 演出
舞台は、山城国小幡の里。
小平次を、猿之助。その女房おとわも、猿之助。
二役の、早替り。
そのおとわと、不義の仲となって、小平次を殺害する多九郎を、巳之助。
今川家の重臣尾形十郎を、松也。
で、この『小平次外伝』、おもしろくなかったのです。
物語が、さらさら、すらすらと流れ、その「筋」は、よく理解出来るのですが、
小平次、おとわ、多九郎の「関係性」が、深みを持っていない。言い換えるならば、人間存在としてのリアリティーが感じられない。内面が、その愛憎、葛藤やらが見えて来ない。
だから、怪談話であっても、その怖さがないのです。
補綴・演出の石川耕士が、『筋書』に、『三十一年ぶりの歌舞伎座で、初の四代目版「小平次」』という題名で、文章を寄せています。
その結びに、
「いま上演時間は大きな命題です。コロナはきっかけに過ぎず、時代の変化が要求しているのですから、歌舞伎も現代の演劇として対応しなくてはならないでしょう。」
最近、歌舞伎を見て、「満腹感」が、なかなか得られなくなっています。
「満腹中枢」が、麻痺してしまったのか。
と。
で、次の演目は、『俄獅子』。
12時28分から、12時48分。20分ほどの作品。
天保5(1834)年、初演。舞台は、俄行事でにぎやかな、吉原仲之町。
鳶頭の松吉を、松也。
芸者お清を、新悟。
同じくお澤を、笑也。
はなやかに、にぎやかに。