6月22日(火)、新国立劇場小劇場で、『キネマの天地』、見ました。


井上ひさし作品。


彼の作品は、先日22日に、『ある八重子物語』を見たばかり。


連続しての、井上ひさし、です。


演出は、小川絵梨子。新国立劇場の、演劇芸術監督。


プログラムに掲載されている、小川絵梨子への『インタビュー』で、

「私は中学・高校と演劇部員だったのですが、中学時代に部で『キネマの天地』を上演し、その時に小春役を演じている」と。


同名の映画『キネマの天地』が公開されたのは、1986年。

山田洋次監督。

脚本は、山田洋次、山田太一、朝間義隆と、井上ひさし。

松竹大船撮影所50周年記念作品。


しかし、舞台版とは、内容に違いがあり、映画版は、浅草の映画館の売り子田中小春が、見いだされて、スターになっていく物語。

その小春を演じたのが、『ある八重子物語』に出演していた有森也実。

ちなみに、小倉金之助監督役を、すまけい。

助監督島田健二郎役を、中井貴一。


舞台版は、松竹のプロデュース公演として、その1986 年12 月に、日生劇場で、井上ひさし自身の演出で、上演。


設定が、1935(昭和10)年3月下旬。ということは、映画版から、およそ1年後。

田中小春も、今では、娘役で人気沸騰、凖幹部となっています。

その田中小春と、小倉虎吉郎監督(映画版では、金之助)、助監督島田健二郎が、舞台版に登場。


築地東京劇場。その裸舞台。

そこに、田中小春(趣里)、滝沢菊江(鈴木杏)、徳川駒子(那須佐代子)、立花かず子(高橋惠子)がやって来ます。

小倉監督(千葉哲也)と、助監督島田(章平)に、呼び出されたのです。


スター女優たち。

滝沢菊江は、ヴァンプ役で人気。幹部。

徳川駒子は、お母さん役で。大幹部待遇。

立花かず子は、トップスターとして君臨し、大幹部。

つまり、彼女たちには、経験や、人気を含めての序列があり、互いが、ライバルの関係にあるのです。


呼び出されたのは、超大作『諏訪峠』の打ち合わせ。

しかし、小倉監督から、まずは、一年前に、この東京劇場で上演された『豚草物語』を再演したいと。

で、その稽古がはじまり。

やがて、小倉監督の「企み」が、明らかになって。

それは、その一年前の『豚草物語』の出演中に、舞台で死んだ、松井チエ子の、死の真相を探り、犯人を見つけるためのもの、ということが分かって来ます。


松井チエ子は、小倉監督の妻であったのです。


女優4人は、松井チエ子を殺害する、それぞれの動機を持っていました。


尾上竹之助(佐藤誓)という、下積みの俳優、どんな舞台や映画に出ていても、印象に残らない俳優を、刑事に仕立て上げ、究明していく。


女優4人の、自尊心、虚栄心、ライバル心。それがさらけ出され、ぶつかり合い、皮肉や悪口のやり取り。

高橋惠子、那須佐代子、鈴木杏、趣里が、互いに、鎬を削る、そのおもしろさ。


最後に、どんでん返しが、二つ用意されて。


『井上ひさし全芝居 その四』の、扇田昭彦の解説。

「これは『昭和庶民伝』などとは違い、女優たちの華やかな競演の魅力を生かした娯楽(原文は、誤楽)劇である。推理劇的な構成という点では、『日本人のへそ』や『雨』とも共通するが、この二編のような奇抜で複雑な趣向は少なく、社会批判色も薄い。」


確かに、その通りなのです。

どんでん返しが、二つ。

しかし、その最後のどんでん返しによって明らかにされるもの。それが、本来は、この作品の基盤を形成していて、全てが、その上に存在しているのですが。その、なんという、小ささ。

ドカンと、心底から震えるような衝撃は、なく。

井上ひさしの、最良の作品には、それがあるのです。しばらくは、客席から立ち上がれないような、衝撃波。

しかし、この『キネマの天地』は、そんなことのために、スター女優4人を集めたの?

そんなことのために、これほどの手間ひまかけたの?


確かに、女優たちの「華やかな競演」を楽しめば、それでよし、としなくてはいけないのでしょうが。

確かに、その「華やかな競演」は、楽しめましたが。


千葉哲也、章平、佐藤誓たちの熱演、力演も、堪能しましたが。


扇田昭彦は、続けて、

「ともあれ、離婚と再婚問題、それん追うマスコミの騒ぎに疲労困憊しながらも、1986年の井上ひさしは実によく仕事をした。この一年に四本もの新作劇(『國語元年』『泣き虫なまいき石川啄木』『花よりタンゴ』『キネマの天地』)を発表、うち二本(『花よりタンゴ』『キネマの天地』)は演出もしたのである。」





プログラムです。


そして、




そして、映画のチラシ。




俳優の写真ではなく、製作の野村芳太郎。
監督・脚本の山田洋次。
脚本の、井上ひさし、山田太一、朝間義隆。
彼らの写真となっています。

松竹の、スター総出演。の、超大作。