1月27日(水)、中野にある、ザ・ポケットで、劇団青年座第244回公演、『シェアの法則』を見ました。





作、岩瀬晶子。
演出、須藤黄英。

作者の岩瀬晶子は、劇団日穏-bion-(びおん)を主宰。
今回のプログラム、その作者紹介に記されている、
「戦争や差別など社会的問題を背景に盛り込みながらも、笑って泣ける温かい作品が特徴。」
まさに、その言葉が、そのままあてはまる、いかにも岩瀬晶子の、しかも、その作品の中でも、優れた作品でした。

舞台は、2014年の東京。
築40年ほどの一軒家。そこに住んでいた春山夫妻。
それを改装して、「シェアハウス」に。
これは、妻の喜代子の思いから。
もともと、喜代子の実家であり、その喜代子の思うままにと、夫の秀夫(山本龍二)。
で、喜代子は、シェアハウスの二階に住み、秀夫は近くの事務所を住まいとして。
秀夫、税理士なのです。
ところが、喜代子が、怪我をして、頭を打ち、入院。
そこで、秀夫が、代わりに二階に。

しかし、シェアハウスの住民たちにとっては、それは面倒なこと。
なにしろ、喜代子は、みんなのために食事会を開いたり、相談に乗ったりと、住民たちにとっての、「母親」的な存在だったのです。

秀夫は、シェアハウスが、収益をあげていないどころか、「慈善事業」になっているとして、家賃の値上げを、住民に伝え。
もともと、近隣の相場からすると、かなりの格安だったのです。

住民たちにとっては、危機的状況。
彼らは、喜代子の回復を待ちわびて。

個性ゆたかな住民たち。
松岡加奈子(森脇由紀)は、クラウドワーカー。宮城県気仙沼出身の彼女には、大震災の記憶が脳裏に深く刻み込まれていて。
小池一男(若林久弥)は、地元の人間。春山家の人たちとも、昔からの知り合い。春山家の長男隆志(嶋田翔平)とは、同級生。しかし、慶応大学医学部を出ながら、医者にならず、「引き篭もり」の日々。
高柳美穂(尾身美詞)は、キャバクラにつとめていて。22歳、実は25歳。しかし、本当は、30を越えて。しかも、16歳の息子がいて。
その息子の翔(古谷陸)。高校生。
この親子、闇金に追われる身の上。
王晴(黒崎照)。中国からの、技能実習生。しかし、その過酷な労働に、逃げ出して。
今は、ラブホテルの清掃を。不法滞在者ということに。
新しく入ったのが、玉田幸平(鹿野宗健)。一流企業に務めていたが、退社。小演劇の劇団員。そのこと、両親に知らせることができず。今度、中野で、芝居をすると。
という、多種多様な住民たち。
それぞれに、いわくのある、訳ありの住民たち。

そこに加わるのが、シェアハウス管理会社の社員である長谷部弥生(佐野美幸)。
シェアハウスの清掃員の、野村至(伊東潤)。
そして、隣人の、岩井富子(岩倉高子)。春山家とは、古くからの知り合い。特に、喜代子とは仲がよく。シェアハウスにも、自由に出入りし、肉じゃがなどの手料理を差し入れ。

チラシにも、
「みんなそれぞれ 色々とりどり」
と。
「一つとして同じ色がない世界はとっても鮮やか
誰かが誰かを無理矢理同じ色に染めようとしても
決して同じになんかならない」

それぞれが、それぞれの問題をかかえて。

プログラムのなかで、作者の岩瀬晶子は、自分自身の経験から、
「共同生活を営む上で最も大切だと思う事は、お互いの違いを認め合い、尊重すること。それは血の繋がらない者同士であっても家族であっても同じことです。人それぞれ考え方も趣味も信じるものも違う私たちが心底理解しあうことは不可能です。それでも相手の立場に立って思いを寄せる=共感する事はできるはず。」
「我々は決して一人で生きているのではありません。地球という大きな家をシェアしているのです。シェアハウスの『法則』は、地球で生活するすべての人々に共通する法則だと改めて感じる今日この頃です。」

また、演出の須藤黄英は、
「様々な背景を持った人達が生活を共にするシェアハウスという場所は、特にこの一年で浮かび上がった『分断』と『不寛容』というまさに私たちがいま直面している問題を内包しています。人にはそれぞれの幸せのかたち、つまり『価値観』がありますが、異なって当たり前という前提が忘れ去られ、自分の価値観を他人に押し付け周囲を顧みない思考や行動が、いま露呈してしまった分断と不寛容の根底にあるものではないでしょうか。」

なるほど、なるほど、です。

作者と、演出家の言葉を引用したのは、ここに、この作品の「柱」があるから。

しかし、その「柱」を、揺るぎないものとして立たせるのは、役者。

作者が、どのように、素晴らしい本を書いたとしても。
演出家が、どのように、素晴らしいプランをたてたとしても。

この舞台、青年座の、その年齢層の厚さ、そして、そのアンサンブルの良さが、とても感じられる舞台でした。