11月12日(木)、六本木にある俳優座劇場で、俳優座劇場プロデュース公演『嘘』を 見ました。



フランスの、フロリアン・ゼレールの作。
翻訳は、中村まり子。
演出は、西川信廣。

フロリアン・ゼレール。1979年生まれの、41歳。

近年、日本でも、上演の機会が増えています。

2016年に、加藤健一事務所で、『誰も喋ってはならぬ!』が、堤泰之の演出で。本多劇場での公演。
2018年に、文学座で、『真実』が、西川信廣の演出で。東京芸術劇場のシアターウエストでの公演。

『真実』は、『嘘』の登場人物と、名前も同じ、二組の夫婦が登場。
ただ、『真実』は、ミッシェルとロランス夫妻が主人公。
『嘘』は、ポールとアリス夫妻が、主人公なのです。

ちなみに、『誰も喋ってはならぬ!』の、加藤健一演じる主人公の名前も、ミッシェル。

昨年の2019年、東京芸術劇場のシアターイーストで、『父』が演じられたのですが、これは、見ていません。
橋爪功が、認知症の老人を演じ、その演技が評判になったので、見逃したこと、悔いているのですが。 演出は、ラディスラス・ショラー。

で、この『嘘』、ポール(清水明彦)と、アリス(若井なおみ)の夫婦が主人公。

舞台は、その居間。

「ポールとアリスは親友の夫婦ミッシェルとロランスをディナーに招待している。二人が来たらとっておきのワインを振る舞おうと張り切るポール。
しかしアリスは『ディナーをキャンセルして』と言い出した。
実はさっき街でミッシェルが見知らぬ女とキスしているのを目撃し、ロランスに話さずにはいられないからと。
それを聞いたポールは『喋っちゃダメ』と大反対。
結局『今夜はキャンセル!』と決めたそのとき玄関のベルが鳴り、やむなくディナーは始まってしまう……‼」(チラシの、あらすじより)

もともと、家に招いて、ディナーをともにしたいと言い出したのは、アリス。
それが、直前になって。

で、その理由というのが、招待した相手のミッシェル(井上倫宏)の「浮気現場」を、見てしまったから。そして、そのことを、彼の妻のロランス(米倉紀之子)に、言わずにはいられないから。と。

なぜ、アリスは、ロランスの夫ミッシェルの浮気に、過剰に反応するのか。

この作品を訳した中村まり子が、劇場で配布されたパンフレットに、
「『嘘』は洗練された台詞と、活き活きとした登場人物の個性が煌めく一級の作品であると同時に、膨大な量の台詞のお芝居でもあり、役者泣かせの一品です。」
と記しているように、膨大な台詞が、舞台上を交差します。

その台詞のなかに繰り返される、「嘘」、「真実」という言葉。

演出の西川信廣は、
「『嘘』は、アリスがミッシェル夫妻の夕食への招待を直前にキャンセルしたいと言い出したところから始まる。そこからの夫婦の対話、そして親友夫婦が加わっての対話は、誰が嘘をついていて、誰が真実を言っているのかが混沌としてきて、まるでミステリー小説のような様相を帯びてくる。」

ポール、アリス、ミッシェル、ロランス。それぞれが、腹に一物を隠し持ち、虚虚実実の駆け引き。
言葉の裏を探り、また逆に、その言葉を信じようとし。

それが夫婦の関係、性の関係になるもので、いかにもフランスの、機知に富んだ、そして、皮肉の効いた、大人の喜劇。
もっとも、そうした喜劇を成り立たせること、難しいのですが。
役者の力量が、それを可能にしていました。

舞台、向き合った女性の横顔の黒い絵が掲げられていて。
見方を変えると、その中央の白い部分が、壺に見える。
「ルビンの壺」。
だまし絵として、よく知られています。
それが、暗転のたびにあらわれて。

何が「真実」で、何が「嘘」か?

カーテンコールがあり、観客の拍手。
そのあとに、「タネ明かし」の一場面。四人の関係が、すべて白日のもとに。

もっとも、その場面が付け加えられる意味があったのか、どうか。
悩んでいます。
観客に、「謎解き」をゆだねた方が良かったのではないか、と。
しかし、その「タネ明かし」の一場面に、観客からの、「謎」が解けたという、ホッとした笑い、そして、拍手。こちらの方が、やはり、洒落ているのでしょうか。