9月26日(木)、神奈川芸術劇場のホールで、『怪人と探偵』を、見ました。

原案は、江戸川乱歩。原案とあるように、江戸川乱歩の創作した、怪人二十面相と、明智小五郎という、二人の主人公を登場させ、物語自体は、オリジナル。

この江戸川乱歩(1894~1965)、その生み出した怪人二十面相やら、明智小五郎やら、少年探偵団やら、テレビドラマや映画にもなり、また、その小説そのものも、子供の頃から、「大人の世界」を覗きこむようにして、読んでいました。
今でも、ドラマの、「ぼっ、ぼっ、ぼくらは少年探偵団。勇気りんりん・・・」と、その歌声が、耳に。

で、その、江戸川乱歩の世界が、新作ミュージカルに。

作・作詞・楽曲プロデュース、森雪之丞。
テーマ音楽、東京スカパラダイスオーケストラ。
作曲、杉本雄治。
音楽監督、島健。
演出、白井晃。

主人公の怪人二十面相を、中川晃教。
明智小五郎を、加藤和樹。
二人から愛されるヒロイン・リリカを、大原櫻子。
この3人の、三角関係。
もともとが、歌唱力のある3人。その歌声には、それぞれの心情が籠められ、物語を語ります。確かに、聞きごたえがありました。
ミュージカルである以上、歌に魅力がないと、悲惨です。

で、また、ミュージカルという物語である以上、それぞれの歌を聴かせる場面の、その基盤となる物語にも、魅力がないと。

しかし、その基盤となる物語に、厚みが感じられない。薄味なのです。水っぽい。

怪人二十面相と、明智小五郎と、リリカの、三角関係。
怪人二十面相と明智小五郎は、盗賊であり、探偵であり、敵対する関係にあるのですが、お互いに、その才能を、認めあっている。
これまでにも、幾度となく対峙し、勝つこともあれば、負けることもある。
その時間の長さ。お互いの気持ち。

明智小五郎と、リリカ。かつて、明智は、犯人を追い詰め、自殺に追い込んでしまった。その遺児が、リリカ。身寄りもなく、孤児院で暮らすリリカ、田口慶子に対して、明智は、「足ながおじさん」のように、面倒を見て来た。しかし、リリカは、その孤児院を飛び出し、行方知れずに。
それが、再会。しかも、事件の当事者として。
リリカにとっては、明智は、親の仇。終生、その恨みは消えないはずであったのに。
いつしか、心ひかれ合う二人。
その過去を、どのように描くか。
お互いが、それぞれのハードルを乗り越えて、「愛」に、どのように、気がついていくのか。

怪人二十面相は、そのリリカが、娘として暮らす北小路家の、「パンドーラの翼」という財宝を狙って、安住財閥の御曹司・竜太郎となって、リリカと婚約を結び、その財宝を手に入れようとする。
しかし、「本当の財宝」に、気がついて。
リリカを愛し、手に入れようと。
その、怪人二十面相が、リリカに、どのようにして、心ひかれて行くのか。
そして、そのことにより、明智小五郎との対立が、より激化するのです。

その、物語としての基盤、あるいは、屋台骨、が弱いのではないかと、思いました。

細かいところでは、怪人二十面相は、北小路家の財宝「パンドーラの翼」を狙って、手下を家政婦などとして、あらかじめ、侵入させています。
その、北小路家、元子爵ではあっても、戦後、すっかり没落してしまい、借金生活。そのため、すでに、「パンドーラの翼」と売り払って、今は、偽物を。
さらに、孤児であるリリカを、娘と偽って、裕福な男と結婚させ、多額の金銭を得ようと。つまり、結婚詐欺を。
で、思うのです。
怪人二十面相とあろうものが、その狙った家の現状を知らない?
手下を、侵入させて、下調べも、十分なはずではないか?
しかも、怪人二十面相、その偽物の「パンドーラの翼」を、実際に、手に取っているのです。で、「少し、剥げている」などと冗談も言っているのです。で、偽物と気がつかない?
あれほど、美術品を狙い、収集し、その美しさ、その真価を理解しているはずなのに、案外、鑑識眼が・・・

怪人二十面相が、財閥の御曹司として招かれた、北小路家の、仮面舞踏会。
北小路家では、何とか、体裁を整えるために、金で雇った者を、招待客として、零落していることを、誤魔化そうとした。
怪人二十面相、人々の立ち居振舞いなどから、何か、気がつかないのか、と。
しかも、その仮面舞踏会。
「マスカレード」などと歌われると、ついつい、『オペラ座の怪人』を思い出して。
役者の人数の関係もあるのでしょうが、さみしい。で、怪人二十面相、北小路家に、お金がないということに、気がつかないのか?

などなど。

また、中村警部(六角精児)率いる警官隊と、怪人二十面相の手下たちとのアクション。何回かあるのですが、同じような展開。そこに、それぞれの場面に応じた変化があったのなら、と。
全体に、同じような場面の繰り返し、既視感が。

と、あれやこれやと、感じながら、見ていました。

ただ、怪人二十面相の中川晃教、明智小五郎の加藤和樹、リリカの大原櫻子をはじめ、北小路邦麿の今拓哉、その妻雅子の樹里咲穂、家政婦浪江はな、実は、ねこ夫人の高橋由美子などなど、見事な歌唱力。
堪能しました。

神奈川公演は、9月14日から、29日まで。すでに、終了しています。
兵庫公演は、10月3日から6日まで。

今回は、神奈川と、兵庫の、2会場だけの公演。
おそらく、再演されると思いますが。
おそらく、さらに練り上げられた舞台になることでしょう。
せっかくの、日本発の、オリジナルミュージカル、再演を繰り返しながら、磨きをかけて、と。