5月11日(土)、黄金町にある、「シネマ ジャック&ベティ」で、『ペパーミント・キャンディ』を、見ました。

監督、脚本は、イ・チャンドン。
1999年韓国と日本の合作として製作され、翌年、日本で公開されました。
日本は、NHKの製作。
大変、おもしろい作品でした。
今回、イ・チャンドンの新作『バーニング』の公開を記念して、この『ペパーミント・キャンディ』と、『オアシス』(2002)が、デジタルリマスター版として、スクリーンで公開されたのです。

映画は、1999年の春から、始まります。
20年ぶりに集まった仲間。20年前と同じ河原での、再会なのです。バーベキューをしたり、カラオケを歌ったり。
そこに、スーツ姿という、場違いな格好で、キム・ヨンホ(ソル・ギョング)が現れます。
彼も、20年前に、彼らと、ここを訪れていたのです。
ヨンホへの連絡がとれなかったと、詫びる仲間。
メチャクチャに歌を歌ったり、その場の空気を壊して、彼は、近くの鉄橋に。
仲間は、一人を除いて、彼に無関心。そこに、列車。
近づく列車。その轟音、汽笛。
「俺の人生を台無しにした奴を、一人、道連れにしたい。しかし、その一人を選ぶのが難しい。」
で、「あの日に戻りたい‼」「帰りたい‼」と、絶叫するのです。

この映画のおもしろいところのひとつは、最初の段階から、フィルムが逆回転をはじめ、ヨンホの人生を7つのパートに分けて、遡っていく。
それぞれのパートには、タイトルが付いています。

1999年、この、春のピクニックが、パート1。

パート2が、その3日前。
港で、拳銃を買うヨンホ。
ヨンホを裏切り、彼の人生を台無しにした、株屋、高利貸し、共同経営者、そして、妻。
1997年に、韓国を襲った「通貨危機」。そのうねりを、まともに受けてしまったヨンホ。会社経営に破綻。で、その拳銃で、共同経営者を撃つ。ただ、それは、車のフロントガラスを砕いただけ。
ヨンホを訪れた男は、スムニ(ムン・ソリ)の夫だと。その案内で、彼女の入院する病院へ。昨日まで意識があり、ヨンホに会いたいと言っていた、と語る夫。しかし、病床のスムニは、すでに意識をなくして。
そのスムニに、ペパーミント・キャンディを渡す。泣き崩れながら渡すヨンホ。
映画を見ている者は、このスムニとは、何者なのか?なぜ、ペパーミント・キャンディを、枕元に届けたのか?疑問が。
その、スムニの目から、一筋の涙が。
一筋の涙、この意味は何なのか?
病院を去るヨンホに、夫が、スムニからと言って、カメラを手渡す。
一人たたずむヨンホ。カメラから、フィルムを抜き取り、激しく泣くヨンホ。その、カメラに、どのような因縁があるのか?
別れた妻ホンジャ(キム・ヨジン)の元を訪れたヨンホ。娘に会いたいと。しかし、ドアを開けてもらえず。邪険な扱い。なぜ、なぜ、どうして、という、疑問が、次々と。
この妻との関係も、時間を巻き戻していくなかで、分かってきます。
信仰深い妻との、エピソード。何事にも、お祈りから始まる妻の描写、滑稽です。何ヵ所か、お祈りの場面があります。
それにしても、なぜ、二人が結婚したのか?なぜ、二人が別れたのか?

そして、パート3が、1994年、夏。

この7つのエピソードを繋ぐブリッジカットが、線路を走る列車。その逆回しの映像。つまり、列車が、逆回しとなり、元の線路を戻って行くように、ヨンホも、過去へと。
線路脇を走る子供が、後ろ向きで走っています。馬車も、後方へと。
静かな静かな世界。

1994年の夏。妻ホンジャの浮気。その現場のラブホテルに乗り込んだヨンホ。相手の男を、パシッパシッと、ひっぱたく、そして、蹴飛ばす。
そのヨンホも、自分の会社の事務員と浮気。彼女との食事中に、出会った男。ヨンホは、彼に、「人生は美しい」と、言葉をかける。
二人のやり取りから、かつて、ヨンホは、警察にいたことが分かります。そして、そこで、この男と知り合ったことも。男は、家族を連れて。しかし、男は、早々に、ヨンホとのやり取りを切り上げたい様子。
ヨンホと、この男との関係は?

そして、パート4。1987年、春。刑事のヨンホ。
ヨンホは、前のパートの男を取り調べ、激しい拷問に。その男の手帳に、書かれていたのが、「人生は美しい」との言葉。

パート5。1984年の秋。刑事として、新米時代のヨンホ。
そのヨンホのもとを訪れたスムニ。彼女は、ヨンホにカメラを贈る。それを突き返すヨンホ。
このカメラって、何なのか、まだ、分かりません。
スムニがヨンホに好意を抱いていること、分かります。
しかし、ヨンホの態度、冷たいのです。むしろ、嫌われることを望んでいるような。
スムニの前で、食堂の女の子の腰を撫でたり。で、この女の子が、やがて、妻となるホンジャなのですが。
ホンジャは、もともと、ヨンホに気がある様子。

で、次が、パート6。
1980年。その五月、光州事件。
韓国の映画を見ていると、この光州事件を、直接、あるいは間接に扱ったものに出会います。民主化を訴える光州の民衆を、軍事力で、叩き潰し、多くの犠牲者を出した。
で、兵役にあったヨンホは、光州事件に関わってしまったのです。
誤って、女子高生を、射殺。
その亡骸を抱えて、泣きわめくヨンホ。
それが、ヨンホの人生を、変えてしまったもの。
ヨンホの心に、癒えることのない傷を与えたもの。
なぜ、ヨンホが、スムニを避けるようになったのか、その理由に、たどり着いたのです。
民衆を鎮圧するための出動。あわてふためいて準備するヨンホ。飯ごうのなかから、こぼれるペパーミント・キャンディ。
なぜ、ヨンホは、それほどまでに、ペパーミントキャンディにこだわるのか?それは、まだ、分かりません。

そして、列車の、遡っていく旅の最後は、
1979年。パート7、「ピクニック」。
最初の場面のピクニックの、20年前。そして、同じ場所。
ここに、仲間で集まって。
で、ヨンホは、スムニと出会う。
野の花を見て、それをカメラにおさめたいと語るヨンホ。スムニは、ヨンホに、ペパーミント・キャンディを渡し、工場で、1日で、1000個、包んでいると。
ペパーミントキャンディは、好きだと言うヨンホ。嬉しそうなスムニ。
ヨンホは、野の花を一本、スムニに。それを大事そうに持ち歩くスムニ。
それが、二人の出会い。幸福に満ちた未来も、可能性としてはあるのですが。

で、河原で、身を横にして、そこに咲いている野の花を見ながら、ヨンホの頬を伝わる一筋の涙。
この涙は、何か?
これから訪れるであろう日々を思っての、予感しての、悲しみ?
スムニの涙が、ここで、思い返されます。

と、物語は、終わるのです。

簡単に、その流れを追いましたが、映画には、さらにさまざまな深みがあり、それぞれの人生が展開しています。

あらためて、見て、やはり、どかんと、心にぶつかって来ました。

前回、気がつかなかったところが、今回、理解出来ました。

さらに、見る回数を増やしていくと、さらにさらに、見えて来るものがあると。
優れた作品は、汲めども汲めども尽きない泉。

で、この作品の、キム・ヨンホ役のソル・ギョングと、スムニ役のムン・ソリが、再び、イ・チャンドン監督作品で共演したのが、2004年に公開された『オアシス』。これもまた、優れた作品です。

この『ペパーミント・キャンディ』という作品、1979年から、1999年を生きた男の人生を、光州事件や、通貨危機という、韓国社会を激動させた事件を背景にして、しっかりと描いています。




で、これが、以前のチラシ。