3月5日(火)、中野にあるザ・ポケットで、NLTプロデュース公演、『TOC TOC あなたと少しだけ違う癖』を見ました。

作者は、ローラン・バフィ。1958年生まれの、フランス人作家。
初演は、2005年のパレ・ロワイヤル劇場。2年半のロングランを記録したとのことです。
それを、山上優が翻訳し、演出。
日本初演も、その山上優の、翻訳・演出・出演で、2016年。その時の題名は、『TOC  TOC~あなたと少しだけ違う性癖(クセ)~』。

内容は、「TOC(Trouble  Obsessionnel  Compulsif=強迫性障害)治療の専門医ステーン博士は、その道の世界的権威。国際的に評判のこの神経精神科医は2、3年に一度しかフランスでは治療しないし、決して同じ患者を二度診ることはない。数年掛かりで予約を取りつけた悩み多き人々が、ステーン氏のもとに一人また一人と訪れる。気が付けば6人の患者たちで“ひしめき合う”待合室。そこへ、出先からの飛行機の遅れで肝心の先生が到着しないとの知らせが入る、さて、混沌の中、帰るに帰れない6人が取った行動とは・・・。」と、チラシにあります。

舞台に灯りがつくと、待合室にいるのはフレッド(ルー大柴)。そこにやって来たのが、ヴァンサン(近童弐吉)。二人のやり取りから、フレッドは、汚言症。意識せず、汚い言葉を発してしまうという。ヴァンサンは計算癖。すばやい計算で、数字で示す。本人は、格別に問題視してはいないのですが、妻が閉口しているとのこと。
さらに、ブランシュ(山崎美貴)。過度の潔癖症。リリィ(井上薫)。反復症。言葉をすべて、2回言う。マリィ(中村まり子)。確認強迫。ガスの栓を閉めたかどうかとか、気になって仕方がない。最後に現れるのが、ボブ(永栄正顕)。左右対称強迫、線を踏めない。
という、6人。それぞれ、ようやくのことで予約をして、この日の診療にやって来たのです。
ところが、肝心のステーン博士は、その姿を見せない。博士は遅れると、助手(永井美羽)が告げる。
6人は、自己紹介をし、ひたすら、博士の到着を待ち続ける。

喜劇です。
待合室での、6人のやり取り。それぞれの症状を抱えながらの、やり取り。
フレッドは、時折、汚い言葉を叫び、ヴァンサンは、数字を、たちまちのうちに足したり引いたり。リリィは、言葉を発する度に、それを繰り返す。ブランシュは、何度も、洗面所に飛び込み、マリィは、バックを忘れてはいないか、ガスの栓は、と。ボブは、床の線を組み合わせた模様に、足を乗せることが出来ず、雑誌を置いて、移動する。
という具合。
そのやり取りが、スピード豊かに展開。ただ、それが、同じテンポでの展開なので、途中から、そのスピードに慣れてしまい、単調に感じられてしまう。
また、そのやり取り、それぞれの症状を誇張するためのもので、深化していく展開を見せない。で、舞台が、単なる騒々しいだけのものに。

今回の席は、横浜演劇鑑賞協会を通しての予約。で、A列6番。つまり、最前列の真正面。しかも、180席の小さな劇場。舞台と客席も近い。目の前で、手を伸ばせば触れることの出来る距離での芝居。
喜劇なので、つまらない顔も出来ないし。
時折、役者と、目が合うし。
ついつい、気を使い。
疲れるのです。

で、さらに感じたのは、それぞれの症状に苦しんで、それを治したい、改善したいと、困難な予約も取って、ようやくのことで、この日を迎え、この待合室にやって来た、その切実感が、あまり表されていなかったかな、と。

ネタバレになってしまうのですが。
フレッドこそがステーン博士で、患者を待合室に集めて、彼らに、知らず知らずのうちに、グループセラピーを施す、というのが、そのやり方。
と、最後に、「種明かし」があるのですが、フレッドとステーン博士との間に、演技の変化がないので、そこが、すぅーと流れてしまうのです。で、最後が、締まらない。

俳優としては、反復症のリリィを演じた井上薫が、言葉を二度繰り返す、それが、次第に、長いセンテンスになり、その二度目の出てくるタイミングが、絶妙。印象に残りました。

ステーン博士、誰が演じたら面白くなるか、あれこれと考えながら、帰途につきました。