12月1日(土)、下北沢にある、ザ・スズナリで、青年座による『残り火』を、見ました。
青年座の、第234回公演。
瀬戸山美咲の作。演出は、黒岩亮。瀬戸山は、この作品が、青年座への、初めての新作書き下ろし。
瀬戸山美咲は、1977年生まれ。2001年に、ミナモザを旗揚げ。現代社会の、さまざまな問題に、鋭いメスで、切り込んでいく姿勢に、好感を抱いています。
最近では、今年の10月に、流山児★事務所の『わたし、と戦争』を、作・演出で、同じく、このザ・スズナリで上演しています。
この『残り火』は、交通事故による被害者家族と、加害者家族を描いています。その視線は、どちらかに傾くことなく、公平に。
12年前、高速道路でのあおり運転で、事故を起こし、8歳の沢渡美希を死なせてしまった藤田健太郎(山本龍二)は、刑期を終え、再び、家族の元に。名前を変え、過去を裁ちきり、新しく居酒屋チェーンを開業。順調な商売を進めています。
妻の明子(松熊つる松)と、二人の子ども。一俊(須田祐介)は、大学院を卒業して、弁護士に。菜奈(市橋恵)は、ハワイ留学に出発するための準備中。
一俊が、あの事故以来、父親と言葉を交わさないということを除けば、傍目には、豊かな家族。幸せな家族。
そこに、フリーのライターを名乗る沢渡大樹(逢笠恵祐)が現れます。
彼は、事故で亡くなった美希の兄。
物語は、そこから、始まります。
古くから喫茶店を営む沢渡伸二(平尾仁)と、その妻の夏江(麻生侑里)。その家族旅行で、あおり運転をされ、娘の美希を失ってしまった。
夏江の意向で、タレント活動をしていた美希。そのことに、反対していた伸二。夫婦仲は、亀裂が生じ、家族旅行のドライブは、その決着をつけるためのものだったのです。しかし、思いもかけない事故。美希が亡くなるという悲劇。
夏江は、家を出て、再婚。
崩壊した家族。その中にいる大樹。
大樹の恋人である早瀬真由(安藤瞳)は、出版社勤務。彼女は、事件や事故の加害者に焦点をあてた単行本の刊行を考えて、大樹に、相談をしたのです。
「事故」の加害者への取材。
その対象に、この事故の加害者である、藤田健太郎も含まれていました。
名前を変えられたために、所在不明になっていた、事故を起こした相手が、今は、藤田健太郎と名乗り、何喰わぬ顔で、生活していることを知らされ、大樹は、行動を起こします。
それが、冒頭の場面なのです。
慰謝料も、未払いの状態。その請求もあり。
ただし、父親の伸二は、慰謝料も含めて、この事故を蒸し返すことには、反対。
あおり運転による事故。そこに生まれた加害者という存在、そして、その加害者の家族。一方に、被害者の家族。
大樹は、やがて、加害者の家族も、崩壊していることを知らされます。
父親が事故を起こし、逮捕され、服役。
そのことにより、残された家族は、どのような生き方を迫られたか。
まずは、経済的問題。生活の手立てを失ってしまう。
しかし、それ以上に、彼らを追い詰めたのが、マスコミによる取材攻勢であり、「世間」からの指弾。
子どもたちは、学校を変わったものの、新しい学校でも、その「正体」が知られると、いじめられ、無視され、その居場所を失ってしまう。友達が出来ても、事件のことがばれると、みんな離れていってしまう。だから、どこにいっても、友達は作らないようにと。身に付いた、痛ましい知恵。
一俊と菜奈の、その傷口の深さ。それが、観客にも、伝わってきます。
また、その傷口を、さらに広げているのが、父親健太郎の面倒を見てきた滝本学(山野史人)の存在。裏社会の人間である滝本は、暴走族上がりの健太郎を、金と暴力で支配。
健太郎が、刑務所にいる間、その家族の面倒を見たのは滝本。
そのことで、滝本は、藤田の妻明子も、息子一俊や娘菜奈をも、支配しているのです。
二つの家族。
それが、交互に描かれていきます。
暗転の中で、「両者」が、舞台上で、交錯。そのことにより、同じ空間を生きていることが分かります。また、それが、展開の早さを生み、緩むことなく、「両者」の抱える現実が、目の前に突きつけられて来ます。
現在進行中の裁判で、東名高速でのあおり運転による死亡事故が、裁かれています。報道番組やワイドショーでも、盛んに放送を繰り返し、その事故の悲惨さが、改めて伝わってきます。両親を、いっぺんに失ってしまった子どもたち。
事故を起こした男への怒りが、湧いて来ます。
つまり、この作品は、舞台という限定された世界のものではなく、今を生きている、我々の現実世界のものであるのです。
作者は、この作品に、救いを残して、幕を閉じさせます。
それは、これからも、我々は、生きていかなくてはならないから。
だから、過去は、過去として・・・と、感じました。
心に、大きな熱いものが入ってきました。それを、何とか消化しようと、下北沢から三軒茶屋まで、歩きました。

