11月30日(金)、高円寺にある、座・高円寺1で、燐光群による、『サイパンの約束』を見ました。
作・演出は、坂手洋二(1962~)。

燐光群は、坂手洋二の主宰する劇団で、1983年の旗揚げ。

この『サイパンの約束』は、サイパンを舞台にした日本人の物語。

サイパンは、1920年から1945年まで、日本の委任統治領になっていました。
そこに移住した日本人のうち、7割が、沖縄の出身。海外に移住して、そこに新たな生活の基盤を設けようとするのは、沖縄での生活が成り立たないため。そこにあるのは、貧困。そして、差別。

坂手洋二は、沖縄に、強い関心を持つ作家。
その作品には、『海の沸点』『沖縄ミルクプラントの最后』『ピカドン・キムジナー』という、沖縄三部作もあります。『普天間』という作品も。
もともと、「社会」への鋭い眼差しを持ち、そこから、「現代」に切り込んでいく。とても、志のある作家なのです。
彼の作品を見ると、その「志」を、しっかりと受けとりたいと思うのです。

で、『サイパンの約束』です。
主人公は、そのサイパンで少女時代を過ごした大城晴恵(渡辺美佐子)。しかし、思い出の中にあるサイパン、その最大都市ガラパンと、現実との差異。
日本統治下のサイパン、激烈な戦争、収容所などを、記憶の底から甦らせていきます。

それを、ひとつの「芝居」に造り上げる、そのためのワークショップとして、この『サイパンの約束』は、構成されています。
つまり、ここには、二つの時間が存在しています。
「芝居」の中に描かれる過去、その「芝居」を造るためのワークショップをおこなう現在。その過去と現在を、行きつ戻りつしながら、舞台は、進行していくのです。
そのことで、「過去」と「現代」が、「サイパン」と「日本」が、繋がっていることを伝えたかったと思います。

ただ、それが、どこまで成功したか、となると、疑問が。
「サイパン」での「過去」の物語、そこで、何があったかのか、何がなされたのか。それらが、重なりあいながら、ひとつの大きな核となるべきが、そこに「現代」が入って来ることで、未消化に終わってしまう。
「物語」の熱量が、「現代」のワークショップの場に切り替わると、その熱量が冷めてしまう。
それは、「現代」の、ワークショップを行っている役者たちの中に、ワークショップをやることによって、何が生まれたのか、その個々の描きが、不十分だと思いました。

結局、ここでつくられている芝居、その主役の大城晴恵役を、彼女自身が演じるということに。すでに、老齢であっても、本人に演じさせたいと、演出家の意向が働くことに。そのため、予定していた女優に、降板を告げた、と。

燐光群の役者たちの、安定した演技があるだけに、何か、「志」だけを受け取ったものであったようです。