4月22日(日)、下北沢のザ・スズナリで、プレオム劇の「妄想先生」を見ました。

作・演出は、中島淳彦。

中学校の教師である河西文子(福島マリコ)は、卒業式を前にして、送る言葉の作成を依頼されています。三年生の担任で、しかも、国語教師。必然的に、彼女の担当になるのです。
しかし、なかなか、まとまりません。
当たり障りのない言葉を、機械的に、並べていけばいいのですが、その言葉に四苦八苦。
それというのも、彼女は、頭のなかに、大きな悩みを抱えていたのです。

その一つが、クラスの生徒丸川(槌谷絵図芽)のこと。
クラスの花壇が荒らされ、卒業式を前にして、チューリップが惨憺たる状態に。その犯人としての疑いが、この丸川にかかっているのです。
このチューリップ、河西にとっては、青春時代からの、思い出の花。単なる花壇の花ではないのです。このこと、芝居の進行の中で明らかにされます。
しかし、丸川は、頑強に、否定。

そして、もう一つが、河西の母親(矢野陽子)のこと。歳を重ね、その行動に、老いの問題が現れて。
河西は、51歳。独身。ということからも、母親の年齢が、推定出来ます。
母親は、この中学校の卒業生。その記憶の中に、刻み込まれた思い出。歳を重ねるほどに、過去の思い出が甦って来るのです。
そのため、中学校にやって来ては、不審人物の扱い。少数の教員だけが、河西の母親ではないかと、気づいています。
その母親を、どのように扱うか。

そうした現実。その動揺から、河西は、妄想の世界へ。
芝居は、その現実と妄想とが、交錯して、展開していきます。

中島淳彦は、巧みな、物語の作り手、です。
ただ、時として、腕があるだけに、腕によりをかけすぎて、過剰になったり、作為が目立ったり。
しかし、それが、ピタリとはまると、そこに、笑いと涙の反復、その爆発。
しかも、それが、高打率。
この作品は、見事に、はまっています。

河西文子を中心として、その母親との関係。同僚教師との関係。彼女自身の恩師である担任の坂本(大西多摩江)との関係。同級生であったハゲ子(良田麻美)や、ブタ子(梶原茉莉)との関係。
その関係の糸が、こんがらがることなく、しっかりと描かれている、それぞれの存在が、それぞれの一個の人間として描かれている。
それは、作者である中島淳彦と、役者たちとの関係の深さがあります。
それぞれの役者を、知り尽くして、それぞれの役者の個性を生かして演じさせている。
もちろん、その結果として、これまでの「キャラ」の繰り返し、延長、ということにはなりますが。

教頭を、田岡美也子。
同僚を、保谷果菜子、伊藤亜沙美、馬場奈津美、澤山佳小里。

笑いに満ち満ちています。しかし、その笑いの背後には、生きること、歳を重ねることの悲哀が、裏打ちされているのです。そのことによって、笑いも、深みを持っています。

エピソードを、書き連ねると、ネタバレになってしまいます。再演されることがあると思います。また、そうなってほしいとも思います。
言いたくて、ウズウズしているのですが。
だから、何がどう可笑しかったか、何がどう悲しかったか、は秘密にしておきます。
それは、見てのお楽しみに!