4月17日(水)、上大岡にある、TOHOシネマズ上大岡で、「ウィストン・チャーチル」を、見ました。サブタイトルが「ヒトラーから世界を救った男」。このサブタイトル、チャーチルの持ち上げ方には、少々、馴染めないものを感じます。チャーチルに対する評価の違いなのでしょうが。
確かに、イギリスの政策決定には、大きな影響を与えたでしょうが、第二次世界大戦の勝利は、彼一人の力によるものではなかった。また、アメリカの参戦というのが大きかった。等々、と考えてしまいます。
原題は、「Darkest Hour」。
ドイツが、ヨーロッパ各地に戦線を広げ、その破竹の勢いがとまらない。
フランスも、侵略を受け、追い詰められたフランスとイギリス軍は、ダンケルクで、包囲されてしまった。40万人の将兵の命は、風前の灯火。
そうした、英国の最も暗黒な時期。
映画の「ダンケルク」が描いた戦い、です。
2017年に公開された、クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」とは、言わば、表と裏の関係になります。
ウィストン・チャーチルは、そうした、国家存亡の危機を前にして、首相に任命されました。
1940年5月10日のことです。
この作品は、彼が首相として任命され、ドイツの攻勢を前にして、和平か抗戦かの選択に苦慮し、最後には、その信念に基づいて、「独裁者」と対決していくことを決定した、27日間を描きます。
画面に、大きく日付が映し出され、それが、日めくりのように、数字を変えていきます。
チャーチルは、非常に、個性的(よく言えば)な人物で、一言で言うと、「偏屈」。それは、彼の幼少期からのエピソードを見ると、よく分かります。そのため、人間関係を結ぶのが苦手。
彼が首相になることは、党の仲間からも、また、国王ジョージ6世からも、危惧されていました。
ジョージ6世、あの2010年に公開された、トム・フーバー監督の「英国王のスピーチ」の、国王です。吃音症に悩む内気な国王。現在の、エリザベス2世の父。
そのジョージ6世が、チャーチルを嫌うのは、彼の兄、エドワード8世が、離婚歴のある、平民の、アメリカ人であるウォリス・シンプソンと恋に落ち、在位わずか325日で退位した時の、チャーチルの対応に、腹を立てていたのです。
2012年に公開された、マドンナが監督した「ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋」です。
頭脳明晰であり、戦略家でもあり、性格は狷介(自分の意志をかたくなに守って、他と協調しない)、偏屈(性格が素直でなく、ねじけていること)。
しかし、内実は、不安を抱え、語り合える友のいない寂しさを悩む、一人の男。
つまり、複雑なのです。
ある時は、自信に満ちあふれ、傲慢。ある時は、傷つくことを恐れ、不安にさいなまれる。
それを、演じるのが、ゲイリー・オールドマン。彼も、個性的。悪く言えば、「癖」のある俳優。彼と共演したいと願う俳優のいる一方、相性が悪いと、悲劇。
1992年の、フランシス・フォード・コッポラ監督の「ドラキュラ」。共演したウィノラ・ライダーにとっては、最悪だったようです。ただ、このウィノラ・ライダーも、「癖」があり、で。
ゲイリー・オールドマン、ウィノラ・ライダーは、ともどもに、私生活でのエピソードも、盛んです。
ただ、ゲイリー・オールドマン、名優であることは、誰しもの評価の一致するところ。
この「チャーチル」においても、その複雑な人物を、チャーチルそのものとなって、演じています。といって、こちらは、チャーチル、身近に知っているわけではないのですが。
今年度のアカデミー賞主演男優賞を獲得しています。
この作品では、もう一人、メイクアップ&ヘアスタイル賞を獲得したのが、辻一弘。今年、「シェイク・オブ・ウォーター」でも、見事な腕前を披露していました。
首相となったチャーチルが、戦況の悪化で、和平への動きが盛んになる中、その逆境を跳ね返し、イギリスの国論をまとめ、ジョージ6世からの信頼も得て、ダンケルクからの撤退、「ダイナモ作戦」を成功させるのですが。
戦後の選挙に敗れ、1945年7月26日、彼は退陣します。
しかし、それで終わらない、したたかさ。1951年に、再び、首相に返り咲いているのです。
もう一つ、この作品から感じたのは、「言葉」の力、です。
万巻の書物を読んだ(大げさ?)チャーチルは、また、文才も。言葉に力を与え、聴衆を煽動。その演説、オールドマンの演技に圧倒されます。
1953年、ノーベル文学賞を受賞しています。
また、絵の才能もあり。
多才多芸、です。
イギリスの歴史に詳しいと、さらにさらに、この作品、楽しめた、と思います。

