産経新聞 7月5日(木)7時55分配信
ヒッグス粒子とみられる新粒子の発見は、素粒子物理学の新たな時代の幕開けを告げる画期的
な成果だ。 「最後の粒子」の存在が確定すれば近代物理学の金字塔である「標準理論」が完成
し、物質に対する理解の正しさが証明されることになる。物理学の偉大な勝利が目前に迫った。
物質の究極の姿と基本法則を探る素粒子物理学は20世紀初頭以降、アインシュタインの相対性
理論とハイゼンベルクらの量子力学を土台に発展してきた。
日本も湯川秀樹、朝永振一郎、小林誠、益川敏英の各氏らが大きく貢献し、世界で20人以上が
ノーベル賞を受賞。 1970年代に確立された現在の標準理論は、多くの実験で正しさが厳密に
証明されており、人類の英知の結晶といえる。
素粒子は物質をつくる12種類と、物質に力を伝える5種類の計17種類がすでに確認済みだ。
しかし、標準理論の重要な骨格となるヒッグス粒子だけが見つからず、半世紀近くにわたり大きな
課題になっていた。
標準理論が完成しても、それは素粒子物理学の「第一章」の完結にすぎない。宇宙を構成する物
質のうち、標準理論で説明できるのは全体の4%だけで、残りの96%は正体不明の暗黒物質や
暗黒エネルギーが占めているからだ。ヒッグス粒子の性質を詳しく調べれば、暗黒物質の有力候
補とされる未知の素粒子の手掛かりが得られる可能性があり、素粒子研究は標準理論の枠組み
を超える世界へ一歩を踏み出すことになる。
また、宇宙初期の急膨張がビッグバンの引き金になったとするインフレーション理論でも、ヒッグス
粒子は重要なカギを握る。粒子の「発見」は物質や時空の本質に迫る新たな物理学を切り開いて
いくだろう。(長内洋介)