■Q1.なぜTPPに参加すべきなのか?
2つの理由があります。
1つは経済の停滞から脱却するためです。今の日本はひどく内向きです。
「少子高齢化で将来は暗い」というイメージが蔓延し、国民も企業も支出を抑え貯蓄に励むばかりです。
しかも、そのお金は経済の活性化に結びつく投資には回らず、
国債、つまり政府の借金の穴埋めにひたすら使われています。
この内向きの悪いスパイラルを脱する最大の鍵は外に向かって国を開き、
近隣アジアの活力を取り込むことなのです。
その重要性は日本もよくわかっていて、これまでも、ASEANに日中韓を加えた、いわゆるASEANプラス3に
おける自由貿易協定の締結に尽力してきました。
しかし、日中韓の足並みが揃わず、停滞しているのが現状。そこに登場したのがTPPなのです。
しかも日本がTPP参加を表明することにより、中国、韓国との貿易交渉が進む可能性もあります。
2つ目は、9.11以降、アフガニスタンやイラクに偏りすぎてしまったアメリカの外交の軸足が、まさにこの
アジア太平洋地域に戻ってきたことです。
その背景には中国の軍事的脅威があります。これは日本にとっても由々しき問題です。
貿易という点だけではなく、こうした外交・軍事的視点からも、
TPPに背を向けるという選択肢は日本にとってありえないと思います。
■Q2.今後の交渉をどう進めるべきか?
社会の仕組みが変わると、それによって利益を得る人と逆に損失を被る人が出てきます。
そういう意味では農業関係者がTPPに反対するのもよくわかります。
諸事情を勘案すると、日本の農業の象徴である米は自由化の例外措置として交渉すべきでしょう。
多くの国でつくられている米と日本で食べられている米は種類が違いますから、おそらく、積極的に米を日本に輸出しようという国はないでしょう。一方、アメリカなどに譲らざるをえないのが牛肉で、
関税撤廃に近い要求があるはずです。
といっても心配には及びません。
しかるべき時間をかけ、生産農家には補助金を出す、という経過措置を進めていけばいいわけですから。
反対派の中には日本の医療制度がアメリカの外圧によって崩れることを危惧する人もいますが、
杞憂だと思います。
TPP交渉参加12カ国のうち、日本と同じ、国民皆保険制度に近い仕組みをとっている国がほとんどで、
例外はアメリカだけです。
そのアメリカも、オバマ大統領がもっと国民全体に行き渡るような医療制度を模索しています。
その12カ国で協議を行った場合、なぜ国民皆保険制度が崩れる結果になるのでしょう。
TPPの交渉は進行形です。
しかも2国間交渉ではなく多国間交渉なのです。
アメリカが仮に理不尽な要求を突きつけてきたとしても、ほかの参加国と協力すれば、
十分跳ね返せるはずです。
TPPはアメリカの陰謀だ、という人がいますが、ある意味、その通りです。
あらゆる貿易交渉は自国の利益を最優先するという意味での“陰謀”だからです。
日本もその心で交渉に臨めばいいのです。
■Q3.中国との関係をどう築くべきか?
これからのアジア太平洋地域のキープレーヤーはアメリカと中国です。
日本も重要な役割がありますが、その2国ほどではありません。
中国は今のところ、TPPへの参加を表明していませんが、今後はわかりません。
先述したように、中国の軍事的脅威が高まっていますが、日本を含めた自由主義国家にとって望ましいのは、
中国の非軍事化と民主化が進み、近隣諸国との関係を強化していく、まったく逆の流れです。
中国と1対1で、そういう関係を築いていくことはとても難しいことですが、
TPPのように、「参加したほうが得だ」と中国に思わせるような貿易圏をつくり、「北風と太陽」のたとえでいえば、
太陽のようなやり方で、自然に中国にも参加を促していくべきでしょう。
もちろん、加入にあたっては、中国はさまざまな民主化を進める必要があるわけです。
WTO(世界貿易機関)の下で国境措置(関税)の自由化を進めてきましたが、
経済連携のための制度論まで踏み込む「内なる自由化」にはなかなか進めない状態でした。
そこに出てきたのがTPPなのです。活用しない手はありません。
■Q4.日本はどんな国を目指すべきか?
日本経済が活性化する鍵は、成長するアジア市場との距離を日本がどのくらい縮められるか、
にかかっています。戦後の日本は「ものづくり立国」として成長してきました。
その主役が自動車メーカーであり、家電メーカーでした。
TPP参加によって、こうしたメーカーの海外進出が加速されるでしょう。
そういう意味では空洞化が起こるのかもしれませんが、それを補って余りある、
物品やサービスの流れが日本からTPP加盟国へ押し寄せるはずです。
これからの日本は「グラビティ立国」を目指すべきです。
グラビティとは引力のこと。国際貿易の分野には、2国間の貿易量は距離が近いほど、
両国の経済規模が大きいほど増えるという「グラビティ・モデル」という考え方があります。
今まではその引力があまり働きませんでした。
なぜかといえば日本以外のアジアの国々の経済規模が小さかったからです。
たとえば、日本に次ぐアジアの経済大国だった20年前の中国のGDPは日本の8分の1、
韓国にいたっては10分の1以下しかありませんでした。
でも今は違います。両国はもちろん、ASEAN諸国やインドも急速な経済発展を遂げ、
貿易のグラビティが十分働くところまで、各国が成長してきています。
それを加速させるのが各種の貿易協定であり、その集大成ともいえるのが今回のTPPなのです。
日本からほかの加盟国に何が出ていくかというと、まずほとんどの消費財です。
たとえば、資生堂の化粧品、ユニ・チャームの紙おむつや生理用品、大正製薬の胃腸薬、
ライオンの洗剤などです。
もちろん、現地生産のほうが有利であれば自動車や家電と同じように、海外進出が加速するでしょうが、
すべてがそうとは限りません。
製造業だけではありません。
公文やベネッセといったサービス産業、ファミリーマートやローソン、ユニクロなどの流通業、
吉野家に代表される外食産業も大変な勢いでアジアに出ていますから、
TPPによってさらにその動きが加速するでしょう。アニメなどのコンテンツ産業も有望です。
一方で、日本の医療や介護制度はもっと大胆な改革が必要です。
日本の医療の質は高く、一時、海外から患者を呼び込もうというメディカル・ツーリズムが話題になりました。
TPPに参加したら、患者を呼び込むだけではなく、医療そのものをグローバルな視野で改革するという発想も
十分検討すべきです。
医療がその典型ですが、日本人が日本人のために日本国内で実施しているサービスを、
もっとグローバルな視点で改革していく。TPPがそのよいきっかけになるのは間違いありません。
■Q5.TPP参加後、働き方、暮らし方はどう変わるか?
現在、日本を含めTPPに交渉参加を表明した国の経済規模は、世界のGDPの約4割を占めます。
言うまでもなく、これは世界最大の経済連携協定です。
TPPによって貿易が活性化すれば経済が上向きます。
そうなると、企業が設備投資や企業買収などに動き、必然的に雇用が増えます。
失業率は改善され、労働者の給料も増えます。
生活面の影響ということでは、食品の値段が少し下がるくらいでしょう。
食料品以外の輸入品に対する関税は現在でもそれほど高くありませんので、
関税が撤廃されても極端に安くはなりません。
TPPによってデフレが促進されるという人がいますが、私はそうは思いません。
TPPで議論されているわけではありませんが、大きく変貌する余地があるのが医療分野です。
保険で認められる医療に、保険外の高度医療をプラスできる混合診療について検討すべきでしょう。
癌などの難病に苦しむ患者にとっては大きな朗報です。
これは繰り返しますが、国民皆保険制度とも十分両立します。
市場を閉鎖して経済発展をした国は歴史的にありません。
しかし、TPPに参加したからといってすぐに効果が表れるわけではない。
長期的な視点で日本の未来を考えていくことが重要です。