こんにちは。今日も事実に基づいたビートルズのお話しです。楽しんでください。
Love Me Do
『来週レコーディング予定のビートルズってバンド。誰をセンターボーカルにするか。個性から言えばジョンなのだが、ルックスから言えばポールだろうな。ボーカルも悪くないし。でもジョンのボーカルも捨てがたい。ここが悩みどころだな。』ジョージ・マーティンは頭を悩ませていた。『これがジョージ・ハリスンと比べるなら、即ポールで決められるんだがな。ジョージの場合、ルックスは悪くないが、ジョン、ポールと比べるとボーカルが弱いな。貰ったデモテープから見ると飛び抜けた曲がある訳ではない。先日売り込みに来ていた作家ミッチー・マーレーって奴の「ハウ・ドウ・ユー・ドゥ・イット」って曲、あいつらにいいかも知れない。デモテープを明日渡しておこう。』ジョージ・マーティンは床に付きながらそう思った。
翌日、マネージャーのブライアンは、ジョージ・マーティンからの連絡を貰っていた。その時2つの連絡をもらった。一つは、「ハウ・ドウ・ユー・ドゥ・イット」を録音したいので、近々デモテープを渡すこと、もう一つは「ラブ・ミー・ドゥー」も録音する予定だがメインをポールが歌うこと、この二つだった。デモテープは貰いに行って来るとして、「ラブ・ミー・ドゥー」は難物だった。最後の低音部はもともとジョンのパートだった。それをポールに歌わせたいとジョージ・マーティンは言う。いや、それだけならよい。ジョージ・マーティンが言うには、「ポールをセンターボーカルにしたいということだった。おそらくそれはジョンが認めないだろう。さーて、どうやってあいつらに言うか?」エプスタインは頭を悩ましていた。
2日間考えても結論は出なかった。ジョンを説得することはできないだろう。ジョージ・マーティンの言う通りにしたならバンドのバランスが崩れて、ビートルズが空中分解するだろう。エプスタインはまだ悩んでいた。ジョンにこれを告げるより、ジョージ・マーティンに正直に言って、断る方が簡単に思えた。今日は「ハウ・ドウ・ユー・ドゥ・イット」のデモテープを受け取りに行くので、エプスタインはジョージ・マーティンに正直に言おうと思った。
EMIスタジオに着いたエプスタインは、早速ジョージ・マーティンと面会した。エプスタインは、ジョージ・マーティンにビートルズ内部の微妙なバランスを説明し、センターボーカルをポールとする難しさを強調した。通常のプロデューサーなら、突っぱねているところだがジョージ・マーティンは人の話を聞くことのできる男であったことが幸いした。だが慎重なジョージ・マーティンは予防線を張っていた。つまりジョンの歌っていた最後の低音部をポールに歌わせるようにしたのだ。ジョンはその部分にハーモニカを吹かねばならなくて歌とかぶっているからという理由だった。ポールをセンターとする手段をまだ残していたのである。だがこの手段は、ジョンが次の「プリーズ・プリーズ・ミー」を打ち出してきた時点で雲散霧消している。
この説明の後エプスタインは、ドラマーがピートからリンゴに交代していることを告げた、どちらにしてもリンゴの実力が分からないジョージ・マーティンは手配しているセッション・ドラマーのアンディ・ホワイトをキャンセルするつもりはなかったので、エプスタインに「問題ない」と伝えた。
ビートルズのデビュー曲に「ラブ・ミー・ドゥー」が選ばれたのは、ジョージ・マーティンがポールをセンターにしようとした名残である。さらに「ラブ・ミー・ドゥー」のさいごの低音部の「…ラブ・ミー・ドゥー~」とポールが歌うようになった部分にその名残が残されている。