テーマ:王女、お菓子 | 咲本葉月の小説ブログ(仮)

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 イザベラがいつものように、次の家庭教師が来るまでの合間に私室を抜け出し、厨房に顔を出してみると、見慣れない若い男性が作業をしていた。

「イーサンはいないの?」

 思わず若い男性に話しかけていた。

 イーサンとは、厨房に行くといつも迎えてくれていた、年配の男性シェフである。

「祖父は先日隠居いたしましたので、代わりに本日からシェフとなりましたリアムと申します」

 深々と頭を下げた男性は、イザベラが誰か知っているようで、何故だろうと思っていると、

「あなた様のことは祖父から聞いております」

 と言われたので、すぐに納得した。

「初めて会ったことだし、一応挨拶しておくわね。私は、イザベラ。この国の第2王女よ」

「イザベラ様。祖父が直接のご挨拶ができず申し訳ないと申しておりました。祖父のレシピは一通り習ってはいますが、至らぬ点もあるかと思いますが・・・・・・」

「そういう固いことは気にしなくて大丈夫よ。私は公務の合間にイーサンにお菓子の作り方を教えてもらったり、話し相手になってもらったりしていたの。あなたにもそういったことをお願いしたいのだけど良いかしら?」

 男性−リアムは少し困ったような表情を浮かべた後、こくりと首を縦に振った。

「じゃあ、これからよろしくね。リアム!」

 イザベラが手を差し出すと、ちょっとだけ躊躇ったあとに手を重ねてくれたので、4・5回程上下に腕を振った。

「で、今日のお菓子はなあに?」

「祖父特製のプリンです」

「イーサンのプリン!私大好きなの。早速いただくわ!」

 行儀良く椅子に座り手を合わせると、スプーンでプリンを掬って口に入れた。

 いつもと同じ甘さが口の中に広がったのだが、何かが足りない気がして首を傾げる。

「イザベラ様?」

「美味しいのだけど、いつもの味と何か違う気がするの。何かしら・・・・・・」

 2口、3口と口に運んだが、何が違うのかイザベラには分からなかった。

 悩みながら食べているうちに、次の家庭教師が来る時間が迫って来てしまい、イザベラは仕方なく完食して厨房を後にしたのだった。

 ・

 数日して、イザベラはまた厨房に顔を出してみた。

 声をかけようとしたけれど、すごく集中してお菓子を作っていたので、とりあえず作っているところを見てみることにした。

 作っているところを見ていると、プリンを作っているのだということが分かった。

「あ、そこ!」

リアムの手元を指差しながら、イザベラは大きな声を出した。

 その声に驚いたリアムが動作を止め、イザベラの方を見た。

「ごめんなさい、驚かせちゃったわね。いつもそこでイーサンがマヨネーズを入れてたものだからつい・・・・・・」

「・・・・・・マヨネーズですか?」

 リアムが意外そうな表情を浮かべたので、イザベラは首を傾げたくなった。

 イーサンからレシピを受け継いだと言っていたので、知っているものだとばかり思っていた。

「その方がなめらかになるって言ってたわ。入れすぎるとだめらしいんだけど・・・・・・」

「・・・・・・なるほど。少し入れて作ってみます!」

 リアムは言われたとおり、卵液にマヨネーズを少し入れてプリンを作ってみた。

作っている最中に、イザベラは家庭教師の来る時間だと残念そうに、終わったら戻ってくるという言葉を残して厨房を去って行った。

そろそろ冷蔵庫に入れたプリンが冷えた頃だろうかとリアムが思った頃、ひょこっとイザベラが厨房に顔を出した。

「やっと終わったから来てみたのだけど、良い頃合いだったかしら?」

「そろそろ冷えた頃だと思います。食べますか?」

「うん!」

 大きく頷いたイザベラは、この前と内容に行儀良く椅子に座り、差し出された皿に載ったプリンに手を合わせ、皿を受け取る。そして、スプーンでプリンを掬って口に運んだ。

「美味しいわ!これこそイーサンのプリン!リアムも食べてみて!」

 プリンを掬ったスプーンを差し出されたリアムだったが、同じスプーンを使うなんてどうなんだろうかとか考えてしまい、すぐには食べられなかった。しかし、プリンの味が気になって最終的にはイザベラから食べさせてもらうこととなった。

「・・・・・・美味しいです」

「でしょう?このなめらかさが癖になるの。なかなかレシピを教えてもらえなかったんだけど、ここに通い続けてたら教えてくれたの。粘り勝ちね!」

 ずっと大人びた印象だったイザベラだったが、人差し指を立てながら微笑む姿は年相応の可愛らしい女の子だった。

 確か8歳くらいだと聞いたはずだとリアムは思った。

「そうだ!リアムは何を作るのが得意?」

「得意料理ですか?」

「うん!・・・・・・私ね、勉強があまり好きではないから、食べることを楽しみにして頑張ってるの。だからね、リアムの料理も楽しみにしたいの」

 イザベラは両手を合わせながら、「ね、お願い!」と上目遣いでお願いする。

 その様子を見て、可愛いなと思いながら、何が得意だろうと考えた。

 祖父も両親も料理人という家に生まれたため、リアムにとって料理は身近なものだった。 

 そのせいか、ある程度のものは普通に作ることが出来るし、アレンジも出来るが、特に得意なものが浮かばない。

「特にこれというものは浮かばないですね・・・・・・」

「そうなの。・・・・・・うーんね、じゃあ作れるものをひとつずつ作っていって欲しいかも!毎日違えば、今日は何だろうって考える楽しみが出来るし!・・・・・・リアムが面倒じゃなければだけど」

 イザベラは、また両手を合わせて上目遣いでリアムのことを見た。

「イザベラ様が楽しみにして下さるなら、頑張りますよ!」

 イザベラと同じ目線になるように、その場にしゃがみ込み、目を見ながら言うと、イザベラは一瞬にして満面の笑みを浮かべた。

「本当!?」

「はい」

「それなら勉強頑張れる!また明日も楽しみにしてるわね!」

「お待ちしております」

 「また明日ね」と言い、ぶんぶん手を振りながらイザベラは厨房を去って行った。

 残されたリアムは、明日から大変だと思いながらも、色んなものを作れることに喜びを感じたのだった。

  ・

 翌日から、リアムは毎日のようにイザベラのためにお菓子を作るようになった。

 目を輝かせながら食べてくれる日もあれば、少し難しそうな顔をしながらちまちまと食べる日もあり、こうした方が良いかもと言われる日もあったが、気に入ってくれているかどうかはイザベラの表情でよく分かったので、もう一度作って良いかどうかを判断するのは簡単だった。

 イザベラが成長するにつれて、授業だけでなく公務も増えていき、厨房に来られない日も出てきて、作ったお菓子を食べてもらいない日もあったが、そんな日は同僚に食べてもらって感想をもらい、別の日に改良してイザベラに食べてもらうようにした。

 そうやって数年の間に、2人の距離は縮まっていき、兄と妹のような親しい関係になっていった。

「ねえ、リアムはどういう人と結婚したい?」

「どうしたんですか?急に」

「あのね、最近色んな人からアプローチを受けてるんだけど、みんな私の容姿や国とかしか褒めてくれないから、きっと私と結婚して得られる立場とかが欲しいんだと思うの。そんな人達の中から相手を選ぶのって難しいなって・・・・・・」

 15歳になったイザベラは、身長も伸び、国内だけでなく他国からも声を掛けられるほど、美しく成長した。

 子どもの頃から見ていたリアムも、時々イザベラを意識してしまうほどだが、イザベラ本人は何も分かっておらず、男性達が容姿を褒めてくるのも、お世辞のようなものだと思っている。

「イザベラ様は早く結婚したいんですか?」

「正直、そんなに乗り気ではないかも。この国はお兄様が継ぐでしょ?で、お姉様は隣国に嫁いだから、お父様達もそろそろ結婚しろって言ってくるけれど、私は結婚よりも先に、この国で自分ができることを見つけてたいの」

「イザベラ様が出来ることはいっぱいあると思いますよ」

「例えば?」

「もうすでにこの国の子どもたちの支援活動をしてますよね?」

「でも、それは私じゃなくてもできることよ。それに、元々お姉様がやっていた活動を引き継いだから、土台は出来ていたし・・・・・・」

「土台はそうかもしれませんが、毎日のように施設に視察に行き、子どもたちから意見を聞いたり、意見を基に改善したりといったことは、誰にでもできることじゃありませんよ」

 しかもその間に色んな男性と会ったり、他の公務もしているのだ。

「ありがとう。リアムと話していると、何だか自信が出てきたわ!」

「それなら良かったです。・・・・・・では、本日のデザートです」

 話ながらも作っていたデザートを、座っていたイザベラの前の調理台に置く。

「今日はなあに?」

「イザベラ様が大好きな、祖父特製プリンです」

「嬉しい!・・・・・・あれ、でも何だか薄いピンク色してるけど」

「実は、知り合いから苺をもらったので、苺プリンにしてみたんです。イザベラ様、苺がお好きでしたよね?」

「昔ちらっと話しただけなのに、よく覚えてるわね!」

「付き合いも長くなりましたし、祖父からも色々聞かされていたので」

 ふふとイザベラは笑うと、スプーンでプリンを掬い、口に運んだ。

 口の中に入れると、ふわっと苺の香りが広がる。

「すっごく美味しい・・・・・・」

「それは良かった!」

「・・・・・・リアムは私の好みも性格もよく分かってくれてるし、話をしていても変に気を遣わなくて良いから、自分らしくいられる気がする」

「そう言ってもらえるのはとても嬉しいです」

 少し頬を染めながら、リアムがそう言うと、イザベラは何かに気付いたような表情を浮かべ、

「きっとリアムみたいな人となら、結婚しても良い関係でいられるんだろうな・・・・・・」

 と聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、ぼそっと言った。

 その声はリアムには届いておらず、

「何か言いましたか?」

 と聞き返されてしまったが、「ううん」とイザベラは返事をして、プリンをまた口に運んだ。

 何だか恥ずかしいような気持ちになってしまったイザベラは、プリンを食べてしまうと、「また来るわ」と言って厨房を後にしたのだった。

  ・

 リアムのことを意識するようになってしまったイザベラは、少しの間厨房に通う頻度を減らしていたが、結局リアムの作ったお菓子と、2人で話す時間が恋しくなり、また毎日のように通うようになった。

 その後、2人の関係がどうにかなったのかについては分からないが、たまに2人で出掛けたり、イザベラが公務で他国に訪れる際に、リアムが連れて行ったという話が語り継がれている。

 

[Fin]