●お断り 題目に挙げた通り「ただの見世物で終わっていない作品」ではありますが、一般的な恐怖映画やホラー映画を完全に凌駕する描写が含まれている作品で、そのレベルは東映京都制作「女獄門帖・引き裂かれた尼寺」と同等です。心臓が弱い等々持病に何らかの影響が出る可能性の在る方・この手の作品が苦手な方・恐怖描写が夢に出て来易い方等々は鑑賞を控えられるか、覚悟を持って自己責任での鑑賞を何卒お願い致します。
皆様、こんにちは。
休み二日目、寒いですが積雪が僅かな分いいです。天気予報では明日は暖かく雨模様との事で、ここ数日間の雪が少しでも消えてくれる事を祈ります。
さて本日は、岡田茂・前東映名誉会長が「あんな映画大金を出して迄買うな!」と命じた異国映画「スナッフ」が数億円の興行収入を得たのを悔しがり「ドラマ性の強い作品は今は当たらない。話題性を軸とした見世物映画を香具師の精神で売って行く!」と制作された作品ですが、今では我国・異国双方に於いて大人気!因みに我国では名画座での上映は古くから行われていた様ですがDVDソフト・有料動画配信化が為されたのは平成20年以降、しかし海外では早くからビデオソフト及びDVDソフトが発売され、現在ではブルーレイソフトも販売されている模様です。
「徳川女刑罰絵巻・牛裂きの刑」昭和51年9月4日公開・志村正浩/大津一郎の共同脚本・牧口雄二監督・東映京都制作。
先述の通りDVD化作品で、U-NEXT/Amazonプライムビデオ(JUNKFILM by TOEI対象作品)内に於いて有料動画配信が行われています。
「汐路章扮する隠れキリシタン摘発及び刑罰に執心した長崎奉行、そしてその下で働く与力・風戸佑介とキリシタンの若い娘である内村レナとの三角関係を通じて描かれる全く救いの無い残酷絵巻」「廓の下働きで金が無いのに日々豪遊を続ける川谷拓三が、惚れた女郎の橘麻紀を救う為に行った足抜けの失敗から始まる拷問・逃亡を経た転落劇」の二部構成。
拓ボンの物語は「相思相愛でお互いを守り思い遣った結果が破滅に繋がったものの、その愛情は最後の最後迄絶たれる事は無かった救いの在るモノ」かつ、拓ボンの常套句「一寸待ってぇなぁ!」と台詞(アドリブか?)を発しながら爛々と拷問される側を演じている面白可笑しさが在りますが…汐路先生の物語は「救いの無い悪趣味奉行の出世前夜の物語」みたいなもの。
何せ飲食をしながら「焼き印の刑」等々を直に観るのを趣味としている汐路先生でしたが「その拷問はもう飽きた!何か別の拷問を考えろ!」と命じ、手下達は頭を悩ませながら考え出したのは「蒸し焼きの刑」「人間丸焼きの刑」「蛇地獄の刑」「人間三段切り(頭・胴・下半身)の刑」「足を砕き塩水で悶絶させる刑」等々…汐路先生は眼が爛々と輝き出し自らも手を下してしまう程大喜び!
そして、風戸さんと相思相愛であった内村さんを「隠れ家を話す事で命を救う」と手籠めにしようとしたものの拒否をされると、まだ10歳前後の妹の眼を火鉢で焼いて失明させ全てを吐かせ(現代では「子供を殺害・拷問等々する描写は絶対に駄目」と仰られる識者・一般の方々も多いですが、俺は遣るべきという考えです。これにより物語が更に面白く楽しくなったり奥深さや主義主張の重みを増す事も多々…更に「映像作品は娯楽作品」「虚実の世界」「創作の自由」が在るのですから縛り付けたり健全性こそ全てと縛り付けること自体が全く以て間違いです)内村さんの前で両親を張り付け獄門の上火炙りに処すと云う快挙を(?)成し遂げます!
両親を処刑された事で汐路先生への憎しみが高まった内村さんはその後大人しくして牙を向ける時期を待っていましたが、先述の「両親の処刑」の際一悶着を起こし与力を罷免されていた風戸さんが刺客として汐路先生に襲い掛かったものの切り殺されてしまった事で内村さんも決起し汐路先生を殺そうとしましたが失敗し、その結果「市中引き回しの上牛裂きの刑」に処せられます!
残酷描写ばかりが先を行き評価されている感が非常に強い作品ですが、当作品は冒頭のクレジットの背景に「世界各地の紛争地域の遺体の山」「虐殺行為と思われる写真」が使用されており、牧口監督は先述の岡田名誉会長の意思を受け入れ完遂しながらも「今でこそ平和で、ケツの青い学生達や若者が反戦や難民救済等々と綺麗事を並べ立ててはいるものの、我国の過去を本当に知っているのですか?世界的に見て過去に最も残酷な行為を自国民に行って来たのは我国かつ、その様な行為を牽引した人間が後に国や地方を牛耳る役人に登用されているのですよ。一度この現実を考えてみませんか?」と、過激描写を通じて訴えようとしたと思います。これが題目に「ただの見世物で終わらないのが牧口雄二!」とした理由です。この辺りは牧口監督が手掛けた東映京都制作の現代ヤクザ映画「広島仁義・人質奪回作戦」の冒頭場面に通ずるものが在ります。
眼を覆われた内村さんの市中引き回しの際、両親と姉を失った上に眼暗となった実妹が役人達に突き飛ばされ罵声を浴びせられる場面にも「一人の残忍な権力者の為に全てを引き裂かれた姉妹の悲しみを公開当時の現在も彼方此方で起きている事と強く訴えようとした牧口監督の主張」が感じられます。
尚、この作品では「汐路先生の口からイモリが出てくる場面」が…
バイアグラの様に三匹のイモリを本当に食した汐路先生でしたが、牧口監督によると「最初は拒否されたものの「汐路さん、これでグッと目立ちますよ」と言ったら本当に遣ってくれた上に「口の中でイモリが嫌や嫌やと小さな足を突っ張って抵抗していた」と話されていた」…更に「蛇地獄の刑」の際蛇だらけの箱に入れられた女優が実は大の蛇好き!アオダイショウ100匹を入れたら「まぁ可愛い!」と中々芝居にならなかった上にこっそり三匹選んで持ち帰ったのだそうですよ!
最後に「行き着く所迄行こうと遣ったが、この作品は石井輝男監督の作品(多分、東映京都制作「徳川女刑罰史」を指しているものと思われます)よりも凄いのでは?」と牧口監督はお話をされています。
●記載文章の一部は徳間書店・刊「東映ピンキー・バイオレンスロマンアルバム」より抜粋しています。