史上最高の思い込み | Whoops!カズのお気楽れんらく帳

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ハクソー・リッジ

2016年アメリカ
監督:メル・ギブソン
出演:アンドリュー・ガーフィールド

突然ですが「永遠の0」に納得いきません。あの映画の主人公は、凄腕のパイロットなのに戦おうとしなかった。その理由が全く分からない。一応、妻子を残して死ねないという理由を挙げていたが、いやいやちょっと待て、あの時代そんな人が何万人いたと思うんだ。そんな中で何故あの男だけがそんな行動をしたのか、また何故軍もそんな役立たずを使い続けたのか、全く理解出来ずに話に入っていけない。納得出来なければ話を進めちゃいけないのだ。

一方、こっちの映画のいいところは正にそこ。さすがメル・ギブソンは分かっている男である。なぜ主人公のドスは“汝殺すなかれ”の想いを貫いたのか、そこに至るまでの過程を幼少時代からじっくり描いていき、ただの宗教バカではない、観客が共感と好感を持たずにはいられないナイスガイに引き上げていく。映画は実に半分以上それを描く事に費やされていくが、それが正解である。この映画の最も大事なところがそこにあるのだから。

その姿勢は軍に入隊してからも揺るがないが、感心したのは周囲の描き方だ。あくまでも銃を持とうとしないドスを追い出そうと、嫌がらせと圧力をかける軍や、白い目で見ながらリンチまでする同僚たちを、決して悪役として描いていない。戦争を否定するようなドスの存在を軍が認める訳にはいかないが、志願者を首に出来ないから自主的に辞めて欲しい。同僚たちは、自分の命を預ける戦友が銃を持って戦わないなら邪魔でしかない。ドスが大迷惑な理由がちゃんと示されるのだ。

登場人物全員の行動と心情が理解できた上で、それでもぶれないドスの信念に、こいつは本物だ!と誰もが認めざるを得ない。そこを手抜かり無く描けるメルギブは、人としてはともかく監督としてはやっぱ天才的だ。

しかし、ここで忘れてはいけないのが、メルギブが映画界きっての超ドS 監督だってこと。観客がドスの信念を理解したのを見計らうやいなや、観客もろとも地獄の沖縄戦に放り込んでこう言い放つのだ、“おまえらこの状況でもまだそんな事言えんのか!”と。

「プライベート・ライアン」以前に「ブレイブハート」で地獄の戦場を描いたメルギブだから、ある程度は覚悟していたが、地獄そのものとしか表現できない沖縄戦がとにかく凄まじい。人間が無造作に肉片に変わり、物体として打ち捨てられる戦場の無機質な残酷さを、どうだ、これでもか!と容赦なく押し出してきて、ドスより先に観客がギブアップ寸前。

鉄の意思のドスも、さすがにここに至るや信念が揺らぎはじめる。そしてとうとう“神よどうすれば?声を聞かせてください!”とねをあげるのである。“神の声なんか聞こえる訳ないっしょ”とヘラヘラ言ってたくせに!

しかし次の瞬間、確かに神の声が届くのだ。もう理屈だとか信心とかを越えたこのシーンには、信仰心の欠片もない俺でさえ感動するしかない。ドスも“聞こえました!”と答えるや超人モードに突入。人知を超えた奇跡を起こすのである。これが実話だなんて!

まあ、あれだけ人が死んでる一方で命を救う話なんて矛盾してるし、一歩間違えれば狂信者の馬鹿力にも見える。その一歩手前で、強引でも神々しい感動に引き上げてみせる。SM 拷問ショーを神の奇跡に仕立てた「パッション」の頃から、メルギブの姿勢は一向にぶれてないのだ。やっぱこの人にはもっと映画を撮らせるべきだ。人間のグズだとしても才能があれば全然OK!

キャナルシティ 20170711