皆さんこんばんは


福岡県で理学療法士をしてますkenkenです*



昨日は「睡眠と寝返りの関係」というテーマで、睡眠の質を向上させるために、無意識におこなう寝返りの意味や快適に過ごすための寝室環境の見直しなどについてお話させていただきました。


今回はまた書ききれなかったシリーズとして、視点を変えてみたときに気づいたことを更新していきたいと思います。※まだ前回記事を見ていない方は下記ご参照ください。


まず、1日の内で寝返りをする理想的な回数について、「睡眠時間8時間に対して一晩で約20回ということをお伝えしました。 健常者目安で、性差や寝室環境など個人差あり


 たとえば、これが脳卒中片麻痺患者さんを想定した場合には、一晩に何回くらい寝返りをしていると思いますか?


ある回復期リハビリ病院で脳卒中患者37名、覚醒時の寝返り動作が見守り以上で可能な者を対象に、寝返り動作能力と睡眠中の寝返り回数の関係を検証した報告があります。(睡眠中の寝返り回数の測定には、無線3次元加速度計を夜間にバンドで胸骨前面に固定して実施)


結果として、脳卒中患者において、臥床時間は 7.3±1.2 時間、寝返り回数は 12.9±15.5【平均値±標準偏差 】、半数以上が10回以下で少なかったという内容でした。(飯倉ら,2015)



では、ここで疑問が2つあります。

①脳卒中片麻痺患者は自分で寝返りが可能な方でも、半数以上が10回以下の寝返りにとどまっているのはなぜか?


②自分で寝返りができない方はどうなるのか?(身体の圧分散や快適性)



  ①: 自分で寝返りが可能な片麻痺患者さんでも就寝中の寝返り回数が少ないのは?

《健常者の場合》

「就寝中に寝返りをうつタイミング」深いノンレム睡眠が集中する睡眠前半では寝返りが少なく、浅いノンレム睡眠とレム睡眠が増加する睡眠後半で多くなります


《なぜ就寝中の寝返りが少なくなったのか》

しっかり眠れた状態であれば、睡眠の後半から寝返りが増えてくるが、病前とは異なる「慣れない入院生活」や「ベッド環境自体」がストレスとなり、眠りが浅くなることで(深く眠れない)、結果として寝返りが少なくなったと考えられます。


入院による睡眠不足の要因

  • 寝心地の悪い病院のベッド

  • 病気そのもの

  • 病気に対する精神的ストレスや不安

  • 手術後またはその他の状態による痛み

  • 病院内の騒音(アラームの音、廊下で話すスタッフの声、機器を移動させる音、同室患者のいびきなど)

  • バイタルサイン(体温や血圧など)の測定、採血、静脈ラインの交換、投薬などのため、夜間に睡眠が妨げられること

MSDマニュアル家庭版「入院による睡眠不足」より転載


入院による睡眠不足に対する対策

  • 機器のアラーム音を調整する。

  • 同室の患者がいびきをかく場合には、病室を移す。

  • 痛みをコントロールする薬、睡眠を促す薬、不安を軽減する薬を投与する。

  • 耳栓をする。


 病院スタッフに伝えるべきことと、自分で出来ることに分けて対応する必要があります。▶︎我慢は禁物です!ちゃんと相談しましょう大あくびピリピリ



  ②: 自分で寝返りができない方(体動困難)はどうなるのか?

《寝返りをうつ意義》

・身体にかかる負担を軽減する

長時間同じ姿勢が続くことで、筋肉や背骨に負担が集中し血行不良を引き起こしてしまいます

・寝具の空気を入れ替える

寝返りには、睡眠に適した布団内の温度や湿度を保つ。


 基本的に人間の重さは部位により偏りがあり、臀部、背中、足、頭の順に重さの割合が大きいです。(下図)



そのため、寝返りをおこなう前の準備として、マットレスや枕、クッションなどにより身体各部位の体圧分散(ここでは特に臀部)をしっかりおこなう必要があります。


読んで防ぐ腰痛の本より転載



《寝返りが困難な方への基本対応》

 一般的に、自分で寝返りができない方は「体位変換」といって褥瘡予防の観点から「約2時間おき」に姿勢を変えることが定説(常識)になっています。※体位変換は仰臥位から側臥位といった大きな姿勢の変換を指します


しかし、その基本対応にもいくつか問題点が指摘されています。

・夜間の体位変換が対象者の睡眠を妨げる(田中マキ子,2013)

介護者の負担が大きい(Faison KJ et al,1999)

 などの要因があげられています。


《寝返りが困難な方への新たな提案》

身体を少し動かし、体重を移動させることで小さな体位変換をおこなうスモールチェンジ(以下、SC)という考え方がでてきています。


スモールチェンジの考え方

SCは「間接的サポート」に分類され、マットや使用している布団を少し持ち上げて、その下にバスタオル等を畳んだものや小さなクッション等を挿入する方法になります。


SCのメリット

・仙骨部の褥瘡予防に有効である(Oertwich PA et al,1995)

・寝返りを模倣できる(中山ら,2005)

・介護者の負担を軽減する(山中ら,2013)


具体的な実践方法


 以上、本日は「脳卒中片麻痺者の睡眠と寝返り」のテーマで、特に自分で寝返りができない方の従来の体位変換とスモールチェンジの考え方による体位変換について紹介させていただきました。


※そのほか、脳卒中患者の約70%が睡眠時無呼吸症候群(SAS)を合併しているとされる報告(Dyken et al,1996)があり、SAS の特徴として、就寝中に寝返りが行われず仰臥位のまま姿勢を保持してしまい、咽頭部の筋が弛緩し気道を塞ぐことで呼吸が止まってしまうことが指摘されています。


そのため、就寝中の寝返り回数減少は重大な問題であり、睡眠中に適切な回数の寝返りを誘導する必要があることも補足しておきます。



最後までご覧になっていただきありがとうございます^ ^