朝、駅のホームで、いつもの場所に立って電車を待っていた。
すると、ひとりの女性がよろよろと歩いてきて、私から3メートルくらい離れたところに座った。
いや、座ったというよりも、座り込んだって感じ。
なんとなく、様子がおかしい。
チラッと横目で見ると、顔が真っ青で、なんだか具合が悪そう。
「大丈夫ですか?駅員さん、呼んできましょうか?」
「お願いします・・・」
小さな声で女性がそう言ったので、
「分かりました。今呼んで来ますから、ちょっと待っててくださいね。」
って声をかけて、通勤客であふれている構内をハイスピードで逆走した。
みんなが振り返って私のことを見てる。
「朝っぱらから、何をドタドタ走ってるんだ?何事だ?」
みんなそんな顔してた。
ちょっと恥ずかしかったけど、そんなこと言ってる場合じゃない。
さらにダッシュして、やっと駅員さんのところに着いた。
「すみません!ホームに具合の悪い女性がいるから、来てもらえませんか?」
駅員さんも忙しい時間。
一瞬、「え~っ。」って感じの困ったような、迷惑そうな顔をしたけど、ほかの駅員さんにひとことふたこと声をかけて、私の後に付いてきた。
私は、すでに片道走ってきてるから、息が上がって、あんまり速く走れない。
「あっちです。ずーっとあっち!」
先の方を指差してるのに、駅員さんは私の方を振り向いてばかりいる。
「動けないみたいなんですよ。かなり悪いみたいだから、早く行ってください!」
って、睨みつけてやった。
そしたら、駅員さん、猛ダッシュで走っていった。
私が追いついた頃、駅員さんがすでに女性と話をしてた。
その周りには、おばさんが2人集まってて、駅員さんに何か助言してた。
このおばちゃんたち、毎朝同じ電車に乗る人なので、顔だけは知ってる。
女性はたぶん「大丈夫です・・・」って、言ったんだと思う。
おばちゃんたちは、「大丈夫じゃないよ、ほら、早く!おぶってあげなって!」って駅員さんに詰め寄った。
そこにちょうど、私らが乗る電車がホームに入ってきた。
私もおばちゃんたちも、電車に乗った。
これに乗らなきゃ、会社に遅れてしまう。
あとは駅員さんに任せた!ということで、みんなで電車に乗った。
電車のドアの向こうには、駅員さんが一生懸命、女性をおんぶしようとしてる姿があった。
ところが、なかなかおんぶできないのよ、これが。
よろよろしちゃって、なかなか腰が上がらない。
駅員さんの体力がないのか、女性が重かったのか。
いや、女性はフツーの体型だったわよ。
女性の荷物も一緒に持ってたから、なかなかバランスが取れなかったんだろうね。
電車が動き出しても、まだ駅員さんは女性を背中に乗せて、しゃがんだままだった。
「大丈夫かいな・・・」
と思ったとき、通勤客のひとりが通りかかって、女性の荷物を持ってあげてた。
そして、駅員さんを手伝って、女性をおんぶすることができたようだった。
そっから先は、もう分からない。
電車はホームを出てしまったから。
でも、きっと大丈夫だったと思う。
こういう場面に遭遇したのって、実は初めて。
私、学生の頃、電車の中で倒れてしまったことがあって。
一瞬で完全に意識を失ったんだけど、気がつくとイスに座ってた。
見ず知らずの男性が、「気がつきましたか?今駅員さん呼んでますからね、大丈夫ですよ。」って声をかけてくれた。
その人は、それだけ言ったら、すぐどこかへ行ってしまったんだけど。
そのときも、朝の通勤時間だった。
助けられた経験があったから、今日も迷わずすぐに行動したんだよね。
たとえいいことをする場合でも、なんとなく、その中心になるのはちょっと・・・みたいな気持ちってどこかにあるでしょ。
私もそうだった。
「誰か助けるだろう・・・」みたいな気持ち。
助けたい気持ちは、めちゃくちゃあるのに。
どうしたらいいのか分からないってこと、あるよね。
今日も、私が駅員さんを呼びに行ってる間に、女性に声をかけてくれたのは、おばちゃん2人だけだったみたいで。
みんなこちらをチラチラ見てはいるけど、ただそれだけ。
気にはなるけど、状況分からないし、何ができるわけじゃないし・・・
ってそんな感じだったんだと思う。
それも分かる。
私は、今日、何も考えずすぐに行動に移せたこと、良かったと思う。
私だって、こういうことちゃんとできるんだ、って思った。
ただ駅員さんを呼びに行っただけなんだけどね。
でも、迷わず行動することができたことに、自分で「良かった」と思った。
私もまた、誰かに助けてもらわなきゃいけないかもしれないし。
持病があるからね。
自分が何かできるときは、これからも積極的に行動しよう!って、今日すごくそう思った。