理由はわからない。

 理由などなかったのかもしれない。

 2年生を除く先輩が、視界に入れば立ち止まり頭を下げて、「おはようございます」、「こんにちは」と挨拶をする決まりがあった。

 しかし、2年生になると先輩後輩の関係はもちろん残るが、兄弟のような付き合いに変わっていった。

 学校生活の基礎の基は、まさしく1年間のうちに叩き込まれた。

 体育祭という運動会のような行事があったが、上半身裸、下は各科の作業ズボンを履き行われた。

 棒たおしという競技があり、相手方の科の先輩に掴みかかった。

 もちろん、競技の延長線上だ。

 ボクに押し倒された先輩は、頭に血が上り、競技から外れ、ボクに殴りかかってきた。

 ボクの思考は止まってしまった。

 競技上のことなら、歯向かうことができるが、それ以外で先輩に反抗していいものかどうか。

 ひっくり返され、何度も蹴られ、3年後どう仕返しをするか考えて、耐え忍んだ。

 それを考えると、入部した通信部の先輩は大人しかった。

 部員は6名。

 うち2名が、ボクを含む1年生だった。

 なんの活動をしているか分からず入った。

 入部理由は、部室にパソコンがあったからだった。

 ボクが卒業したあとに、情報処理などの新設の科ができたようだったが、其頃はまだパソコンが珍しかった。

 入部して直ぐに合宿があった。

 校内の平屋の空き家が使われた。

 教官の社宅としてあったものだ。

 夕飯は、「高専鍋」とか「通信カレー」といった、伝統メニューを期待していたが、出されたのは、国民食のカップめん一つだけだった。

 早めの夕食を済ませると、交代で無線機にかじりつき、朝まで交信をするという大会だった。

 資格のないボクは横で眺めているだけ。

 このときには、パソコンはただの記録簿代わりと知っていた。

 「トイレに行ってきます」と荷物をまとめ、家に帰った。