はじめて1人でふらりと行ったのは、三十三間堂だった。

 朝早く、荷物を背負い宿を出た。

 小学生の頃泊まった日間賀島の民宿「井戸田」。

 岐阜板取のバンガロー。

 あとは、小中学校の修学旅行。

 高専のスキー研修の乗鞍。

 出かけて泊まると言えば、阿蘇や徳島の親戚の家。

 民宿「井戸田」の名前を覚えているのは、30年以上年賀状が来たからだった。

 おしゃべりな面白い女将、丸茹でのタコ。

 1回しか泊まっていない。

 それくらいの記憶しかない。

 坂本龍馬のお墓に行きたくなり、下調べせず列車に乗った。

 京都に着く頃には、すっかりと日が暮れ、ねぐらを探した。

 駅を出たはいいが、古都に不似合いなタワーを見上げ、前方に見える大きなお寺の軒下で朝を迎えようと歩き出した。

 お寺が近づいてくると、旅館と書かれた小さな木の看板が目に入った。

 引き戸を開けると、薄暗く人気もない。

 怪しまれないようにと、出来るだけ明るく、建物の奥に声をかけた。

 無表情な中年女性が、「はい」とひと言、奥からあらわれた。

 映画の一番面を思い出す。

 「部屋空いてますか。」

 こんな時間に、いきなり来て、いいものなのかもわからなかった。

 「どうぞ。」とスリッパを出され、帳場で説明を聞き、料金を支払い、部屋に案内された。

 灰皿だけ置かれた小さなちゃぶ台の前に座ると、意外なほど疲れているのに気づいた。

 なんとなく手続きが終わった安堵感もあり、タバコを1本吸うと、晩御飯も食べず、風呂にも入らず、布団を広げて下着1枚で身体を丸めた。