朝、出勤すると、所長がいつもの如く、無言で指示書を渡してきた。

 お客さん名と積み地の住所が書かれてあり、行き先などは空白で、指示書の真ん中あたりに、㊙とゴム印が押されてある。

 いつも思うのだが、空白のままで、ゴム印はいらない。
 逆に、目立つのではないだろうか。
 余程、人に見せることはないが。
 見積もりに行った若い営業マンが、「可愛い女性だよ」と意味深にボクの耳元で囁くように言った。

 よくよく聞くと、彼氏がパチンコに行っている間に、積み込みを済ませてほしいとのこと。

 ボクは、説明を続けようとする営業マンの顔の前に手をかざした。

 それ以上は聞かなくても、大方のことはわかった。

 風俗にでも働かされて、お金は巻き上げられ、反抗すれば暴力をふるわれる。

 ボクは着てきた社名入りのツナギを脱ぎ、無地のツナギに着替えた。

 隣で、正ちゃんも同じツナギに着替えていた。

 「ボクたち、㊙の仕事を多いよな」

 「他の面子が行くと、揉めるからちゃう」

 正ちゃんの言う通りだった。

 正しくいえば、揉めた。

 確かに、規則正しい場所で過ごしていた仲間が、全体の三分の一くらい、数名いた。

 「え〜なぁ〜、正ちゃん。え〜なぁ〜」
 愛媛松山行きの仕事を羨ましがっている、ななちゃんもその一人だった。
 必要最低限の物だけを持ち、ボクと正ちゃんは、社名の入っていないトラックに乗り込み、現場に向かった。