いつもそうだった。
いつも泣けてくる。
知らない土地の風景を見る。
無責任以外の、なにものでもない。
そして、その土地の、いいところだけ見て帰るだけ。
贅沢だった。
お客さんのところは、すぐにわかった。
どこからどこまでが、私有地なのかわからない、芝生の中に小ぢんまりとした平屋。
荷下ろしは、1時間も有れば終わりそうだった。
玄関の引き戸を開け、自分でも意識をした、少し大きめの声で挨拶をした。
当たり前だが、昨日、大阪にいたお母さん(おばあさん?)が出てきた。
せかされるように、部屋の中に通された。
朝食が、用意されていた。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240624/21/6zyoumanopianoman/fa/82/j/o1014056715455540741.jpg?caw=800)
昼食で、お弁当やらお寿司を出されることはあったが、仕事前に朝食を、それもお客さんと一緒に食べるというのは、始めてだった。
ボクも、正ちゃんも、仕事を始める気でいたので、いっぺんに気が抜けてしまった。
ボクたちの道中のことや、二人の子供のときのこと、島のこと。
まるで、おじいちゃん、おばぁちゃんの家に来た感じだ。
食べ終えたら、爪楊枝をくわえて、横になってくつろいでしまっても、何も言われないような気がして、横になった。
案の定、慌てないなら、今夜泊まって行けと言う。
はっと、我に返った。
いつの間にか、おばあさんと庭で、草むしりをしている正ちゃんに声をかけ、荷物をおろした。
ここに住み着いて、島の娘と所帯をもつのもいいなという夢は、あっけなく破れた。
1時間もかからずに、荷物をおろし終えた。
心を込めて、深々と頭を下げ、お礼を言って名残惜しいが、福岡に向かった。