いつもそうだった。

 いつも泣けてくる。

 知らない土地の風景を見る。

 無責任以外の、なにものでもない。

 そして、その土地の、いいところだけ見て帰るだけ。

 贅沢だった。
 お客さんのところは、すぐにわかった。
 どこからどこまでが、私有地なのかわからない、芝生の中に小ぢんまりとした平屋。
 荷下ろしは、1時間も有れば終わりそうだった。
 玄関の引き戸を開け、自分でも意識をした、少し大きめの声で挨拶をした。
 当たり前だが、昨日、大阪にいたお母さん(おばあさん?)が出てきた。
 せかされるように、部屋の中に通された。
 朝食が、用意されていた。
 昼食で、お弁当やらお寿司を出されることはあったが、仕事前に朝食を、それもお客さんと一緒に食べるというのは、始めてだった。
 ボクも、正ちゃんも、仕事を始める気でいたので、いっぺんに気が抜けてしまった。
 ボクたちの道中のことや、二人の子供のときのこと、島のこと。
 まるで、おじいちゃん、おばぁちゃんの家に来た感じだ。
 食べ終えたら、爪楊枝をくわえて、横になってくつろいでしまっても、何も言われないような気がして、横になった。
 案の定、慌てないなら、今夜泊まって行けと言う。
 はっと、我に返った。
 いつの間にか、おばあさんと庭で、草むしりをしている正ちゃんに声をかけ、荷物をおろした。
 帰りに、業務提携等している福岡の会社で、帰り荷を積まなくてはならなかった。
 ここに住み着いて、島の娘と所帯をもつのもいいなという夢は、あっけなく破れた。
 1時間もかからずに、荷物をおろし終えた。
 心を込めて、深々と頭を下げ、お礼を言って名残惜しいが、福岡に向かった。