ボクの旅に始めて色が加えられた夜だった。

 昨晩は、気持ちの良い心配りの中で、ビールも料理も格別に感じた。

 20年以上経ってから、店を探したが、店名も覚えていず、場所もうる覚えだったので、3度目の再訪とはいかなかった。

 店が、残っていない可能性も考えられた。


 松山を出ると、もうあとは、ボクにとっての、心の中に描いていた風景が広がりだした。
 違う世界に入り込んだ感覚で、松山駅のホームには、昨日までのボクが、手を振って、ボクを見送っている。
 内子、大洲と通り過ぎ、港がありそうな八幡浜で列車を降りた。
 港町はどこも寂れた感じの所が多いが、八幡浜は昔は賑わったような感じが残るレトロ感のある街だった。
 記憶に残っているのは、港近くの宿に泊まったことと、小さな商店街で少しパチンコをうったこと。
 あとは、夜中に目が覚め、窓を開けると、眼下に、真っ暗な中、沢山のトラックの明かりが見えたこと。
 その時、ここから九州大分に、フェリーが出ていることを知った。
 もっと先の、佐田岬からだけ出ていると、思い込んでいたのだった。
 朝を迎えて、駅までテクテク歩き、宇和島に向かった。