今日の夕方に予定を入れてしまい、それまでどうやって過ごすかまで考えず、ホテルを出た。

 そして、路面電車に乗った。

 夕方の予定も、取るに足らないものだったが、ホテルは連泊をお願いしていた。

 昨晩、小料理屋からホテルに戻ってきたとき、フロントに昨日の従業員がいた。

 気分が良かったのか、そのまま少し世間話などをした。

 連泊の件を伝えたとき、1番、長期で泊まった客はどれくらいいたかを尋ねた。

 1月泊まった人がいたという。

 1月ならあまり長くはないなと思ったが、なんで1月泊まっていたのかも、尋ねてみた。

 作曲家らしく、年に1度は泊まりにくると言った。

 建築関係とかなら想像つくが、作曲家だと想像がつかない。

 こんなホテルで曲は作れない、と思うのだが、芸術家はわからない。

 ここを拠点に、何らかの仕事があったのだろうか。

 ここなら、愛媛県内を移動するのは、便利ではある。

 それ以上、考えるのは面倒くさかった。

 駅前からはわからなかったが、城に近づくにつれ、街全体が賑わってきた。

 松山市駅という私鉄駅の周りが、繁華街らしかった。

 路面電車をおり、ロープウェイでお城を目指す。

 お城から街を見おろす。

 いい街だなぁ。

 何故か、いい景色を見ると泣けてくるのが常だった。

 特に、お城を中心として広がる街に憧れがあった。

 再び、路面電車に乗り、道後温泉に向かう。

 高専生だった頃、活字中毒だったボクが、改めて読んだ「坊っちゃん」の舞台を見たかったからだ。

 街の中にある温泉地は、住む人々にとっては、大きな銭湯のようだった。
 物語の中の温泉を、物語を思い出しながら、時代のつながりを感じながら、堪能する。
 久しぶりの旅行気分。
 たまにはいいもんだなと、路面電車に乗り、再び松山駅に戻る。
 ホテルの部屋で、少し休憩をして、昨晩訪れた小料理屋さんに行く。
 そして、昨日と同じ場所に座った。
 2日目なのに、何十年と通う常連のように、ボクは瓶ビールとともにくつろいだ。