吹き溜まりの落ち葉。
ボクはそこから、知らぬ間に抜け出していた。
ボクは、旅に出ていた。
電車の走る揺れと音が、ありきたりの風景を、ボクのまぶたに刷り込んでいく。
トンネルに入ると車窓に映り、トンネルを抜けると消えるボク。
レールの上でも、彷徨っていた。
それでも、無駄なものが体や心から洗い流され、身軽になっていくのを感じた。
腰に手を当ててるおばあさん。
カゴを背負い、鍬をついてるおばあさん。
何やら、立ち話をしている。
用水路の水に、指先をつけている小さい女の子。
身体を支えているお母さん。
何気ない日常しかなかった。
ボクの日常とは違う、日常があった。
ぼんやりと、それでいて愛おしく風景を眺めていると、声をかけられた。
帽子のつばをつまみつつ、車掌さんが、1000円をくずせないかと聞いてきた。
どうやら、小銭が無いようだった。
おしりのポケットから、財布を出し、800円分しかなかった小銭を車掌さんに渡す。
岡山駅についたら返すとのこと。
こんなこともあるのだなと、再び車窓から外を眺めていると、先程の車掌さんが来て、付いてくるように言われた。
何事かと付いていくと、最後尾の車両の車掌室に招かれた。
岡山駅に着くまで、ここにいていいという。
客室の椅子より、明らかに座り心地の悪い簡易椅子に座らされた。
車掌さんは、車掌室の扉を閉め、また仕事に戻っていった。
椅子は真後ろを見るようにあり、目の前に次から次へと、離れていく景色があった。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240602/06/6zyoumanopianoman/e2/91/j/o1000073315446319984.jpg?caw=800)
いっきに贅沢な旅になったなと、独りごちた。
今晩はそのまま、岡山で泊まることにした。
その時に、安い宿はないかと尋ねた。
西口なら、商人宿があるかもしれないと聞いた。
ボクは疑うことなく、岡山駅の西口に向かった。