吹き溜まりの落ち葉。

 ボクはそこから、知らぬ間に抜け出していた。
 ボクは、旅に出ていた。
 電車の走る揺れと音が、ありきたりの風景を、ボクのまぶたに刷り込んでいく。
 トンネルに入ると車窓に映り、トンネルを抜けると消えるボク。
 レールの上でも、彷徨っていた。
 それでも、無駄なものが体や心から洗い流され、身軽になっていくのを感じた。
 腰に手を当ててるおばあさん。
 カゴを背負い、鍬をついてるおばあさん。
 何やら、立ち話をしている。
 用水路の水に、指先をつけている小さい女の子。
 身体を支えているお母さん。
 何気ない日常しかなかった。
 ボクの日常とは違う、日常があった。
 ぼんやりと、それでいて愛おしく風景を眺めていると、声をかけられた。
 帽子のつばをつまみつつ、車掌さんが、1000円をくずせないかと聞いてきた。
 どうやら、小銭が無いようだった。
 おしりのポケットから、財布を出し、800円分しかなかった小銭を車掌さんに渡す。
 岡山駅についたら返すとのこと。
 こんなこともあるのだなと、再び車窓から外を眺めていると、先程の車掌さんが来て、付いてくるように言われた。
 何事かと付いていくと、最後尾の車両の車掌室に招かれた。
 岡山駅に着くまで、ここにいていいという。
 客室の椅子より、明らかに座り心地の悪い簡易椅子に座らされた。
 車掌さんは、車掌室の扉を閉め、また仕事に戻っていった。
 椅子は真後ろを見るようにあり、目の前に次から次へと、離れていく景色があった。
 いっきに贅沢な旅になったなと、独りごちた。
 今晩はそのまま、岡山で泊まることにした。
 車掌さんと岡山駅でおり、800円を返してもらう。
 その時に、安い宿はないかと尋ねた。
 西口なら、商人宿があるかもしれないと聞いた。
 ボクは疑うことなく、岡山駅の西口に向かった。