ふと思い出す風景。

 探し出せない、古い写真。

 鶴橋駅で降りる。

 仕事では、毎週来ていた。
 鶴橋駅と新今宮駅は、独特の匂いを持っている。
 決めていたわけではなかったが、環状線に乗り換え、大阪駅に向かった。

 人の多さに、頼りない身は、押されて、流されて、押し込まれるように、逃げるように、ホームに入ってきた電車に乗った。
 走り出したあとの、車内アナウンスで、西に向かっていることだけはわかった。
 街から離れ、民家が少なくなっていく車窓を眺めていた。
 いくつかの駅にとまり、また1つの駅にとまった。
 ドアも閉まらす、走り出す気配がなかった。
 どうやらここで、乗り換えみたいだった。
 曖昧な記憶だった。
 始めて聞く駅名。
 由来はわからなかったが、好きな語呂だった。
 ボクの好きな語呂の1つの、夢前は近くなのだろうか。
 夢前と書いて、「ゆめさき」。
 わがままなセンチメンタルが、男の一人旅には欠かせなかった。
 相生に着いてから、気持ちが切り替わった。
 風には、逆らわない旅をしよう。
 ボクの気持ちを察したように、ホームに電車が入ってきて、車内に誘うようにドアが開いた。
 当たり前のように、ボクは乗り込み、適当な座席に、荷物を横において座る。
 ボクに気を遣うように、ゆっくりと電車は走り出した。