今日は、朝から気分が悪い。

 嫌なことを思い出したからだ。

 それは、ボクは人に「ほんとに人の話聞いてないよね」と、よく言われることを思い出したからだ。

 言われた時に、説明しとけば、朝から嫌な気分にならなかったのかもしれないが、今思い出したから仕方がない。

 今、相手はいないが、言わせてもらう。

 人の話は聞いている。

 付け加えて言わせてもらう。

 忘れただけだ。

 だから、一緒にしないでほしい。

 改めて話を聞いて、「思い出した、思い出した」という人間とは、違うのだ。

 ボクの場合は、ほんとに忘れてしまっているのだから、頭の片隅や心の片隅に残っていて、思い出す人間とは、失敗や失礼なことをしても許して欲しい。

 いや、許すべきだ。

 忘れてしまった人間を諭しても、諭された方は何を責められているのかわからないからだ。

 そんな気分の悪い朝を忘れようと出かけた。

 駅の近くを歩いてたときだった。

 目の前に見知らぬ男が手を差し出し、ボクの歩みを止めた。

 「ちょうどよかった。この前の返せよな」と唐突に言われた。

 何がちょうどいいのかもわからず、何を返すのかもわからない。

 尋ねてみると、この前の昼飯の時に、持ち合わせのなかったボクが、目の前の男から千円借りていたみたいだった。

 知らない男からお金を借りるほど、落ちぶれてはいない。

 男のことを尋ねてみた。

 中学2年の時、同じクラスだったという。

 その男のことは思い出したが、金を借りたのは思い出せない、忘れた、実際に借りたのかも疑わしいので、そのままその同級生とは別れた。

 もちろん、今、持ち合わせないからと断った。