(カリボリカリボリ、カリボリカリボリ)
何だ何だと、うつらうつらしてた頭を上げ妻を見ると、看護師さんがガラスコップからスプーンで何かを食べさせている。
緩和ケア病棟3日目から食事を出されても食べないので、食事の提供は止めてもらっていた。
毎日、なんでもいいから口にしてほしいと、病室の小さい冷蔵庫には、プッチンプリン、りんごのゼリー、ヤクルト、野菜生活、リプトン紅茶などや、ういろう、アポロチョコ、カステラ、キャンディーなどを取り揃えていた。
しかし、体を起こすたびに尋ねるのだが、首を横に振るばかりだった。
歯の丈夫な妻が氷を食べている。
ブルーハワイのシロップで唇を少し青くしながら食べている。
口からスプーンが離れると、「おいしい」と久しぶりに声を聞いた。
気が済んだのか、横になろうとしたので、頭の下に手を入れ支えながら、寝かしつけた。
なんだか満足そうな顔も久しぶりに見た。
1日、ボクは何度泣けば済むんだろうと、涙を拭った。
翌朝、何か飲むか尋ねると頷いた。
紙パックの野菜生活にストローをさし口に持っていくと、自分の手で持ち大きい一口を吸った。
「慌てなくていいよ。まだたくさんあるし、ゆっくり、ゆっくり」
それでも、のどを鳴らしながら、あっという間に飲んでしまった。
これで、少しずつ、少しずつ、栄養をつけ、体調が良くなることを願った。
昼に帰ってきて、ヤクルトにストローさして手渡すとまた、美味しいそうに飲んだ。
少しずつ、少しずつでいい、何日かかってもいい、また家に一緒に帰ろう。
大きな鞄の中には、退院する時に着る服も用意して入れてあった。