緩和ケア病棟の病室は、明るく病室を感じせなかった。

 看護士さんが、緩和ケア病棟のベッドに移そうとすると、「しばらく座っていたい」と、病室内の背もたれ付きの椅子に妻は腰掛けた。

 妻と同じように、5階の病室から見える普段生活している地方都市の街を眺めた。

 景色は高層階から見るより、これくらいの高さのほうが落ち着くなと思いながら、窓の向こうにある日常を非日常と感じた。

 しばらくして、妻はベッドに入りウトウトしだした。

 ここで心身とも安静にすれば、1週間くらいで体調が回復して、退院できると思った。

 ナースセンターに、すぐ戻る旨を伝えて、アパートに戻る。

 ボクと妻の着替え、それにボクの昼と夜と次の日の朝の食べ物。

 できるだけ、病室から出なくていいように、大きめのカバンに荷物を詰め込み、病院に戻った。

 夜、妻の食事の時間に合わせて、横でボクは弁当を広げた。

 レンジで温めたかったが、匂いに敏感な妻のストレスとなると思い、そのまま食べた。

 うまいまずいよりも、自分の体力維持のために食べた。

 妻は、ご飯と味噌汁を少し口づけ、バナナを半分だけ食べた。

 病気のせいか、薬のせいか、食欲がないようだった。

 食事が終わると妻は横になり、すぐに眠りに落ちた。

 ボクは、ソファベッドをフラットにして、カバンの中から持ってきた寝袋を取り出し、足を突っ込んだ。

 昨晩は、意識が朦朧としていた妻だったが、ここに来て少し気を取り戻したようになった。

 昨日は一睡もしてないのに眠れずに、ボクは目を閉じて、夜が深くなっていく空気を寝袋の中で感じながら、明日からの予定を考えていた。