ムーンナイト・ダイバー | 放浪カモメはどこまでも

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ムーン


天童荒太さんの、
「ムーンナイト・ダイバー」という

小説を読みました。


内容は、東日本大震災の津波で
海底に流された故郷へ、

月明かりの中、潜り
被災者の遺品を回収する
男の話です。


男は、東大震災の日、

自分の身代わりで兄を失い、
遺された者の抱える罪の意識
いわゆる「サバイバーズ・ギルト」
を抱いています。


そんな男が

立ち入り禁止区域に非合法で潜るという


法を犯し、


瓦礫などの様々な危険が潜む海底に
月明かりだけを頼りに


死と隣合わせの中、潜っていく。


男は何故潜るのか?

男は何を想い潜るのか?

男は何を得るのか?



平たく言えばそのような内容の小説です。



私は天童さんの小説が好む理由の一つとして、

人が持つ言葉で表せない弱い心の部分を

真摯に書いてくれるところです。


言葉で表すことが出来ないから

それを行為で代償し物語にする。



包帯クラブでは、

心の傷を受けた場所を包帯で巻き、

悼む人では、

突然の死を迎えた人々に
ただただ祈りつづける。


ムーンナイト・ダイバーでは、

天災という憎むべき相手がいないものに
対しての
憤り、やるせなさ、無力感、
を潜るという行為によって

必死に何かを変えようとします。



また、遺品を待つ遺族も、

行方不明者の遺品が出てくれば、

死の事実を受け入れなければ
ならない面もあり、

ジレンマを抱いています。


物語が進むにつれ


男は

心は、暗い海に潜り、
死に近づいていくが、

それに反比例するかのように

体は、生を強く求めます。


それに対して、疚しさを感じながらも、

様々な人と関わり、潜り続けていきます。


やがて、自分が潜る理由がわかり、

それにより人の思い出を届けることに

前向きになっていきました。



最後は暗闇に妙光が指したような、

穏やかなハッピーエンドだと感じました。



ここからが感想ですが、

正直、私自身主人公に共感できる部分は

少ないなぁと感じました。


生に対しての罪の意識なんて
偽善としか思えないわけです。

その様な体験をしていないから。


でも、苦しみを抱えた主人公が
死と隣合わせで潜り続け、

様々な人との関わりにより、

立ち直っていく姿には

勇気を貰いましたし、感動もしました。



また、こういう天災の悲劇を
描く作品には

その悲惨さをセンセーショナルに
伝えるため、
水死体などをリアルに描こうと
するものもありますが、

この小説にはそういう描写が無く、

死者に対して、配慮を大事にした
作者にとても好感が持てました。


難しいテーマの小説でしたが、
読んで良かったと思う本でした。