あとは、砂肝さえあればいい。塩で。
どんな酒か、と訊かれれば、僕は、「甘い」よりも「バカな」酒だと答える。
あのコは一体、何がしたいのだろう?
…といっても、本当に知りたいわけではないのだけれど。
あれが、計算したうえでの行動でないというのならば。
そしてそれであのコが泣くことになるというのならば。
……ならば、何だ?
分からない。
分からない、けれど、今までのように接してはいけない気がする。
「今までのように接してはいけない気が」したことは、これまでにも何度もあった。
他の人に対してもあった。
でも、いつだって、僕にはそれはできなかった。
優しさとか、同情とか、そんなものではなくて、ただ、自分自身に甘かったから。
それでも世間はそれを「優しさ」と呼ぶ。
ジョン君でさえ、それを敢えて「優しさ」と呼ぶ。
非難の意味を込めているんだ。
アヤちゃんのその優しさは、残酷だ。
期待してしまうよ。
甘えてしまうよ。
結局、泣かせてしまうよ。
……そういうモンだよ?
言われなくても、分かってるよ。
って、反論したかったけど。
したら絶対に、
分かっていてもそれを良い方向へ向かわせられないのなら、分かっていないのと同じだよ。
どんなに仕方のないことでも、全ての主観的事情を排除した客観的外観だけなら、
分かっていないのと、同じだ。
って言われるだろうから、黙るしかなかった。
(以前、別の件で経験済み。)
だけどね。
今回は、今までのように接し続ける方が難しそうなんだ。
僕が、辛いから。
最低だなって、思う。
自分自身に嫌気がさすよ。
嫌気がさすけど。
でもちゃんと、そんな僕を非難してくれる人がいるから。
だから僕は、どんなに過ちを犯しても、自分で自分を責めるようなことだけはせずに済んでいる。
僕に言わせるならね。
ジョン君の方が残酷だよ。
彼女のあの寛容さは、許容する範囲の大きさは、ヒトを駄目にする。
さて。
あのコは一体、何がしたいのだろう?
時間があるから、更に一考。
昨日の日記から分かるかもしれないけれど、
物凄く久し振りに、日常の「出来事」に引っ掛かってしまって。
個人的に引っ掛かることはあまり無いものだから、
どうしたら良いのか、上手く考えられなくて。
取り敢えず、彼女に愚痴ってみた。
(ジョン君ではなくて。)
最後まで、ちゃんと聞いてくれて。
何か意見するでもなく、ただ黙って、時折相槌を打ちながら。
こんな言い方をすると怒られてしまうかもしれないけれど、
彼女の僕の話を聞く姿勢は、ジョン君のそれに似ている。
肩の力を抜いて話せる。
自然と言葉が紡がれる。
一通り愚痴り終わったら、彼女は呟いた。
アヤくん、今の時間で、いつものアヤくんの1か月分くらいの量を話したね。
……話していたのは1時間弱くらいだ。
普段の僕は一月で合わせて1時間弱しか言葉を発している時間がない、ということになる。
1日あたり2分あるかないか。
確かに僕は根暗で無口だけれど、流石にそれは無い………と、思いたい。
まさか、ねえ?
いつだって、僕らは数え切れないほどの「出来事」に取り囲まれている。
その一つ一つに気を取られてみたり。
何時の間にやら呑み込まれてみたり。
中から一つとりだして戯れてみたり。
毎日、半ば無意識にそうやって生きている。
けれど僕は恐れているから。
或る「出来事」だけに全身の細胞を向かわせてしまって他のことが目に入らなくなることを、
恐れているから。
極端に視野が狭くなってしまっているのに「ちゃんと見えてる」という錯覚に陥ることを、
恐れているから。
だから、出来る限り、「日常」に心を囚われることのないように
淡々と日々を過ごそうとしている。
実際に僕は比較的無感動な人間で。
アヤはいつだって無機質だ。
どこに行っても、誰かしらから、こんな感想を戴く。
以前から付き合いはあったものの最近になって初めてまともに話せるようになった人は、
ちゃんと生きてるんだね。
と驚いていた。
(何も、本人を目の前にして言わなくてもいいと思うんだ。)
まあ、そんなわけで。
たまに鬱期が到来したりもするけれど、
それはこうして吐き出せる場所があるからそうしているだけで。
無かったら無かったで、
改めて自分の中にあるモノを見つめ直すこともなく、
ただ何となく受け入れて生きていくのだろう、と思う。今までがそうだったように。
こんな話をすると、一般的にひどく気の毒がられる…というか、
「そういうのは辛くない?」
と言われたりするのだけれど、
本当に、無意識にやっていることで、
それを改めて表現するとこうなるだけで。
だから、その「作業」に何かを感じることは全くない。
そうやって、
出来る限り、「日常」に心を囚われることのないように
淡々と日々を過ごそうとしているはずなんだけど。
でもやっぱり、そうもいかないわけで。
何時だったか、ジョン君が言っていた。
一人でいるのが好き。
一人でいるのが楽。
でも、一人では生きられない。
だって、この世に生を授かるその瞬間から、
誰とも関わらずにいたことなんて、
一瞬たりともないのだから。
ああ。意外と脆く出来ているものだなあ。
さっき、ジョン君から謎のメールが来た。
こんばんは。
アヤちゃん、
やっぱり、女の子がいいわ。
じゃ、お休みー(ρ_-)о~゜
…………訳が分からない…。
一応断っておくけれど、何かこれに繋がりそうな会話をしていたわけではない。
「お休み」と言われてしまったら、返しようがない。
最近の彼女は本当に読めない。
まあ、今に始まったことではないけれど。