父は、若いころ画家に憬れていた。
部屋には、印象派の絵が飾ってあった。
父は、湖に浮かぶバレリーナの水彩画を描いていた。
子供の頃、ほんとうに綺麗だなって思っていた。
昨年ひょっとしてまだあの絵があるかもしれないと思い、どうしても忘れられず実家を再度、
探してみたが、とうとう発見することができなかった。
わたしも父の血を継いだのか、中学校から美術部に入り、油絵を描き始めた。
大学へ入り憬れていたパリへ行き、時間ある限り美術館で絵画を見て歩いた。
2度目のパリも美術館を歩き回った。 しかしこの絵は見たのだろうか。
シュルレアリスムのことばかり書いているが、印象派とくにルノワールの作品を愛している。
これほど優しく温かく女性を描ける画家はいない。
愛ってなんですかと聞かれたら、彼の絵を見て欲しいと言ってもいいだろう。
それほど彼は、女性の美しさを知っていたのだろうと思う。
写真はお借りしました。
色彩の柔らかい線のタッチは、比類を見ない。
この作品は、まさに人類の最大の美の遺産と言えるだろう。
ルノワールの最高傑作でもある。
正式には、『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢の肖像』という。
上品な顔に輝く大きな瞳、透明感のある白い肌、
腰まで伸びた長く柔らかい赤毛の髪、
品の良さを感じる青と白の服、膝の上の小さな手。
なによりも、この作品に最も惹きこまれるのは、<あの瞳>ではないだろうか。
わたしは、ずっと魅せられている。
憂いのような、少し頼りなさそうな、優しげで、まっすぐに何かを見つめている。
まだ世界がよく見えていないところからくる不安なのかもしれない。
後で知ったのだけれど、当時彼女は8歳。
しかし、この絵には女性が持つ<甘美な魅力>を感じさせる。
わたしは、最初15歳くらいだとと思っていた。
それは<あどけなさの美しさ>か。
いや、ルノワールは女性の持つマリアのような優しさや愛情をもこの絵の中に含めていたの
だと思う。
だからこそ、世界中に愛され続けている。
ルノワールのイレーヌの肖像こそ、最も美しい作品ではないかと思っている。
深さにおいては、ダビンチのモナ・リザほうが優れているかもしれない。
あの口元の微笑み。
しかし、イレーヌの憂いのある瞳は、宝石のように燦然と輝きつづけている。
この絵は、依頼主に気に入られずに長く家の奥にしまわれて、大戦中にナチスのゲーリング
に没収されてしまう。
しかし戦後、イレーヌ本人の元に戻されるが、再び売りに出されて、スイスのビューレー財団
が購入したようだ。
最高の宝石でもあるから波乱に満ちた運命の作品ともなった。
よくぞ戦争のなかを生き抜いてこれたと思う。
昨日知ったのは、東京で「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」展があり、
国立新美術館 .2/14(水)~5/7(月)で、この作品が展示される。
近々、東京に行くかもしれないので見たいと思っているが、大変な待ち時間になるのだろう。
恐らく時間的には無理かもしれない。
もし行かれた人は感想を教えてほしい。
コレクションなのでパリで恐らくわたしは見ていない。最も愛する絵だ。
この表情がわたしの女性観を作り上げてくれた気がする。
イレーヌとの出逢いは、幸福なものだったと思っている。
ルノワールは晩年、車椅子で制作を続けるが、不自由になった手に筆をくくりつけ、デッサン
をしていた。
女性のなかに、恐らく<美の本質>をみていたのではないのか。
彼ほど、女性のなかにあるもっとも美しいものを見い出し表現し、愛しつづけた画家はいな
かったのかもしれない。
イレーヌはわたしのこころのなかで、生き続けている。
あの瞳が<愛>を教えてくれたのだから。
