絶対への接吻、あるいは妖精との距離  

山下達郎。最初に彼に巡り合ったのはRIDE ON TIMEだろうか。
20数年、彼の世界を愛し続けてきた。
彼のライブを見るのは夢だった。しかし諦めかけていた。

なぜなら彼はめったにライブをしない。99%函館には来ない。
例えば札幌でライブがあるとしよう。
函館から特急列車(電車ではない)で片路3時間半もかかるんだ。
コンサートが終っても帰りの汽車がないので、1泊2日の旅となってしまう。
だから現実的には無理だろうとずっと思っていた。

昨年わたしは倒れたけど、なんとか生還することができた。
振り返って見ると、じぶんがやろうとしていたことは中途半端なことばかりだった。
そんなときに、達郎が6年ぶりのツアーをしていて札幌でライブをやるという新聞記事を見た。

気がつくと、ネットで先行予約をしていた。
これはわたしの夢だった。
わたしが倒れたことで価値観が変わったのかもしれない。
その夢は、叶えなければならないと思っていた。

4月24日(金)特急列車で札幌へ向かう。
一番不安だったのは、体調のこと。
まだ不安定なので、無事にライブを見て帰ってこれるだろうかということだった。
案の定、不安定になって札幌駅について、ホテルへ直行して少し休憩することで体調が少しよくなった。
なんとか、ライブに間に合いそうだ。

会場でも持ち応えられるかというじぶんの声が聞こえてくる。
ここまで来たら、運を天にまかせるしかない。
会場周辺には、異様な雰囲気が立ち込めてくるのがわかる。
どうもそれは緊張という言葉なんだ。
6年ぶりのライブにファンのボルテージは緊張という表情をしめしていた。
これが達郎ファンの心理か。

わたしも、異常に緊張していたのだろう。
まるで初恋のひとに再会するような心理だろうか。
なにしろ、長い間彼の世界とともに生きてきた人間だ。
彼にどれほど助けられたかわからない。

楽しい時も、苦しい時も、わたしは達郎の音楽で救われてきたから。
どれほど、彼に憧れ、尊敬しているかわからない。
音楽に対する畏敬の念。そして愛。
完璧主義者と呼ばれたり、マンネリと批判されても、彼は絶対にじぶんの信念を貫いてきた。
そんな彼の生き方が大好きだ。

彼は話していた。この世界に入って34年経ちました。山あり谷ありでした。
ラジオではオールディーズのナンバーを流し続けてきた。
彼は、50年代からの黒人音楽
(ドウアップ・ブルース・リズム&プレース・ゴスペル・ロックンロール)
を誰よりも愛し紹介し続けてきた。
わたしもそんな達郎のセンスが大好きだった。

さあ開演だ。心臓がドキドキしていた。後ろを見ると立ち見状態になっている。
とうとう達郎に会えた。すでにわたしは感極まっていた。
最初のころにわたしが最も好きな「夏への扉」を演奏したからだ。
彼の作品でも決してメジャーとは言えないと思っていたから驚いた。

涙が流れていた。
この詩は1000回以上も聞いて、わたしの人生観になっていたから。

「ひとつでも信じてることさえあれば 扉はきっと見つかるさ
あきらめてしまうには早すぎる 扉の鍵は見つかるさ」

山下達郎 - 夏への扉



じっくり曲が聴ける第1部が終ると、第2部はアカペラだ。
これほど透明で力強い声は聴いたことがない。
生は始めてだけど、陶酔という感覚になっていく。

またあの「クリスマス・イブ」で涙してしまったなあ。

そして、第3部は、アップテンポのナンバーが続く。
このスタンディング状態は、次第に恍惚という感覚を思い出させてくれた。
音を極めているひとだからできるインプロビゼーションの数々。
どこまでも突き抜けるボーカル。
興奮は極点まで届いたようだ。

そして、アンコールの拍手が鳴り響く。
こんなことがあるのだろうか。
もっともこの時が印象的だった。達郎は5曲以上もアンコールをしたんだ。
そのサウンドが、恐らく今までのライブと何か違うことをわたしたちは彼から聴いていた。
まだ追加公演があるので、ブログでは書かないで欲しいと言われているので、これ以上は書けないけれど。

エンディングの曲。わたしは言葉を失っていた。
おそらく、達郎はこれ以上歌えないというところまで、
大宇宙までじぶんの声よ届いて欲しいという感じに聞こえた。
観客は放心状態だったようだ。
わたしは、興奮と恍惚と感動が入り乱れていた。

最後の彼の観客への挨拶は言葉で伝えることができない。
これは書いても伝わらない。
魂の底から、音楽を愛する人間の感動的な姿だった。
そして、達郎は観客も魂の底から彼の音楽を愛し続けていることに感謝していたのだろう。
あのシーンは一生忘れないだろう。

Your Eyes - Tatsuro Yamashita



きみの瞳をずっと見つめつづけていたい。
なぜなら、瞳の奥にきみの美しく輝くこころが見えるから。
それを感じたいから。

音楽を極め続け、音楽を愛し続け、音楽を守り続けようとする達郎。
彼の笑顔はほんとうに美しかった。

これでライブは終ったのだろうか。
時計を見ると、午後10時だ。
今回は3時間だと聞いていたので、また驚いていた。
なんと3時間30分もやっていたのだ!。

周りの観客を見ると、目を赤くしているひと。興奮で顔が紅潮しているひと。
わたしはそのどちらでもあり、北海道厚生年金会館を出た瞬間
ほてった体に、ひんやりとした風が信じられないほど心地よかった。
汗をかいていたからだろう。
そして目を空に向けると、美しい星たちが祝福してくれているようだった。

わたしは久しぶりにじぶんの存在を実感していた。
こころと体が熱くなっていた。
達郎は、わたしに生き続ける勇気をくれたのかもしれない。

今日は、わたしにとって生涯忘れられない一日となったと感じていた。
今、わたしは生きている。
これからも彼と生きていくだろう。ずっと。いつまでも。

ありがとう達郎。ありがとう。