母ちゃんの言葉は優し

 

図書館で怒られたあと、私は三線を抱えたまま家に帰った。

 

 

夕方の空が少し赤く染まっていた。

玄関を開けると、母ちゃんが台所に立っていた。

 


「おかえり」その一言を聞いた瞬間、

胸に溜めていたものが一気に込み上げた。

 

 

私、

「朝礼で……歌えなかった」

涙が止まらなかった。

悔しかった。情けなかった。

 

 

 

何百人もいる前で、何もできなかった自分が許せなかった。

 

 

 

 

母ちゃんは、手を止めて私の顔を見た。

 

 

そして、静かに言った。
「のーりー、泣かなくても大丈夫だよ」

 

 

私は首を振った「できなかった」

 

 

母ちゃんは、少し笑った。

優しく、強い笑顔だった。

 


「のーりーはね、凄いことしたんだよ」

私は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、母ちゃんを見た。

 

 


「何百人もいる全校生徒の前に立ったんだよ?それだけで凄いことさ」

 

 

 

私は黙ったままだった。母ちゃんは続けた。

 

 


「それにね、何百人もいる生徒の中で、三線を弾けるのは誰?」

 

 

私は小さな声で言った。「……俺」
「そう。のーりーだけだよ」

 

 

少し間を置いて、母ちゃんは言った。

 


「こんな凄いこと、ある?」

 

 

その言葉で、胸の奥の何かがほどけた。

 

 

 

私はできなかった自分しか見ていなかった。

 

 

 

だが母ちゃんは、立った勇気を見ていた。

 

 

弾けるという才能を見ていた。

 

 

あの日、私は救われた。

 

 

成功よりも、立つ勇気を大切にすること。

 

 

人と比べるより、自分の持っているものを見ること

 

母ちゃんは、三線だけじゃない

 

 

生き方を教えてくれた。

 

 

母ちゃんの言葉がなければ、私は三線を置いていたかもしれない

 

 

母と息子の温かい交流