いや~、数ヶ月ぶりのブログ、ようやく書き上がったあ。
このマンガは作家名とタイトルにつられてつい買ってしまった。
全1巻完結。


描いたのは数多くの代表作をもち、「マンガの神様」といわれた故・手塚治虫。
昭和30年から40年代前半生まれであれば手塚治虫のマンガを読んで育ったという人も多いと思うが、自分はアニメでは手塚治虫原作の作品をそれなりに観ていたがマンガとなるとそれほど読んでおらず、読んだのは「プラック・ジャック」、「どろろ」「火の鳥」、「W3」、「奇子」、あとは「小学一年生」に載っていた「ふしぎなメルモ」くらいだったと思う。

なのでこのマンガは知らなかったが、昔だから通用したであろう今ならすぐにうるさい良識派気取りの連中が騒ぎそうなインパクトあるタイトルと、手塚治虫の短編を読んだ覚えがなかった事から読んでみる事にした。

このマンガは定時制高校に通う主人公・北村市郎(イッチ)


が学校帰りに幽霊の行列を見てしまい、そしてひとりの美しい少女と


雑誌記者の本田


に出会った事から現世と来世、死後の世界にまで巻き込まれてしまう。

手塚治虫がこのマンガを描いたのは、1974年(昭和49年)。
この頃自分は小学生だったが、オカルトや怪奇ものが流行っていて、マンガでいえばつのだじろうの「うしろの百太郎」や「恐怖新聞」、楳図かずおの「漂流教室」などが人気があった。
「コックリさん」という今なら恐くて絶対やらない霊を呼び出す遊びも流行り、自分のいた学校では「コックリさん」は禁止されたが、それでも学校から帰ると友達の家とかでコッソリやっていた。
そんな時期だったので、手塚治虫も霊魂や死後の世界を扱ったマンガを描いたのではないだろうか。
またこの頃は第二次ベビーブームの時期にあたり、あの世で行われている戦争で死んだ魂が現世に生まれるというアイデアもそこから出たものだと思う。

手塚治虫は亡くなる迄人気漫画家であった印象だったが、実は低迷していた時期もあったらしく、「ブラック・ジャック」でふたたび人気漫画家として復活したらしい。


そういえば自分が最初に読んだ手塚治虫のマンガも、週刊少年チャンピオンに連載されてた「ブラック・ジャック」だったなあ。

一度ヒットした漫画家が落ち目になるとだんだん雑誌に載らなくなりそのまま消えていくのがほとんどで、ふたたび人気作家に返り咲いたというのは珍しい例であり、それができたからこそ「漫画の神様」なのだろう。

このマンガはふたたび勢いを取り戻した時期に描かれたもので、イッチが死んだ本田からの情報で死後の世界でも戦争が行われていて、戦争で兵士が足りなくなると現世で大事故を起こして死者の魂を大量に連れていく事などを知ってしまい、その為、死神に生きながらにして魂を死後の世界に連れていかれ、現世では死んだと思われ解剖されてしまう。
身体を失ったイッチは苦悩しながらも幽霊として死後の世界と現世を見るが、出会った少女と一緒に生まれ変わって、もう一度新しい人生をやり直そうとする迄が描かれている。
マンガの中で少女はさほど重要な役ではなく、イッチと本田だけでもストーリー的には充分動いたと思うのだが、連載されていたのが学研の「高一コース」という学年別に分かれた学習誌であり、対象読者が思春期を迎えた男女である事を考慮した上で、あえてイッチとあまり歳が変わらない少女を出し、同じ頃に流行っていた山口百恵の歌になぞらえながら差し障りのない範囲で性的描写も取り入れたのであろう事も窺える。(現在なら、これでも出版社にクレームを入れるPTA や教育団体がいそうだが)

手塚治虫の凄さは、さいとうたかおの「ゴルゴ13」や白土三平の「カムイ伝」、影丸譲也の「ワル」といったリアルな描写による新しいタイプのマンガ、「劇画」の台頭によってそれまでの子供を対象としたマンガっぽいマンガがウケなくなり、それまでマンガっぽい画を描いていた漫画家達も劇画風のタッチを取り入れていった中で、手塚治虫は生涯を通してマンガの画風を変えず、しかしストーリーは対象読者の年齢に合わせる事で読者に受け入れさせた事で、このマンガを読み、あらためてそれを感じた。

どれだけ人気があろうとごく一部を除き、長くてもせいぜい4~5年で完結していた頃のマンガにはムダがなく、よく昔の「マンガ家入門」のような本に書かれていた起承転結でうまくまとめられていたと思う。
ある程度の長さなら途中から読み始めた場合でも最初から読む気にもなるが、あまりに長いとそういう気になれず、それだけでなく、おもしろかったはずの作品を駄作にしてしまっている気がする。

現在の人気マンガがダラダラ続く傾向は、ある一定のフアンからの支持はあるだろうが入り口が狭く、新しい読者に抵抗感を持たれ、雑誌自体の新陳代謝も行われにくいので新しい読者が獲得できないのもマンガ雑誌が低迷してる一因になっているのではと自分は思っている。

このマンガは学年別雑誌での連載だったので、毎月限られたページ数で、しかも長くても一年間という制約の中でひとつの物語を完結させなければならなかった。
現在活躍する漫画家で、こうした制約の中でおもしろいと思えるマンガを描ける人がはたして何人いるのだろう?