全30巻完結。

これまで田中宏が描いてきた不良もの連載作の集大成的作品になっている。
「BADBOYS」「BADBOYS グレアー」「莫逆家族(ばくぎゃくファミーリア)」「女神の鬼」と描かれてきた作品は関東の架空の地方都市を舞台にした「莫逆家族」以外は広島を舞台に多少の関係性を持たせながらもそれぞれ一つの作品として完結してきたが、この「KIPPO」では過去の作品達で十代の若者として暴れ回っていたキャラクター達は中年のオヤジとなり、息子世代の物語として描かれている。
「グレアー」の主人公だった大友勝将

の父親である大友勝恋とその奥さん津妃子を家長とし「BADB OYS」のTOP3が中心となり

さらに「グレアー」のキャラクター達も加わってその息子世代達と共に「魂の絆」で結ばれた一大ファミリーを広島に形成しており、前半は「BADBOYS」の主人公だった桐木司

の息子・桐木久司

を通して大人になってもふとした事がきっかけで荒ぶる心が甦り道を踏み外しそうになりながらもファミリーの助けもあって踏みとどまる元不良達の危うさや実際に道を外れてしまう元不良が描かれる。
中盤はこれまでの作品にも登場してきた暴走族ビーストの二代目&三代目時代から大人になったふたりのこれまで生きてきた道の違いからまったく別の人生を歩む姿が描かれる。
初代総長・虎鮫金次郎

の不幸な死により一度は解散したビーストだったが、はみ出し者である自分達の居場所がほしいと復活させ、初代の遺志を受け継ぎ強さだけでなく優しさでチームをまとめようとした二代目総長・堂前正之介だったが堂前と同じく金次郎に拾われてビースト入りした辰波遥は幼少期から愛情をいっさい与えられずに育ってきた。

(左:堂前正之介 右:辰波遥)
その為小学校からの友達である雨宮以外には心を開けず常に飢えておりそれがより狂暴性となり他人から奪わずにはいられなくさせる。
そんな辰波の暴走を止められずにいた正之介だったがその優しさからやがて総長の座を奪われてしまい辰波が三代目総長となる。
辰波が総長になってからはそれまでと違い暴走族としての強さで恐れられるだけでなく、「仕事」と称してチームぐるみで窃盗や強盗を繰り返す犯罪集団となっていき「ビースト」は暗黒時代へと突入していく。
時は流れ大人になった堂前は関東でお好み焼き屋を営み平穏な日々を過ごしていた。
一方辰波は若い頃悪事を重ねるうちに報復を受け殺されたと思われていたが、実は身代わりの死体を用意し生きていた。
片腕のゴムや「BAD BOYS 」で猛威をふるった廣島連合の元幹部・江崎、森らを使い窃盗や強盗、詐欺の他、殺人から死体処理迄どんな悪事も行う闇バイトのネットワークを全国に構築する組織の元締めとなっていた。

広島から離れて関東に潜伏するが広島のファミリーに追われ、その過程で「莫逆家族」の主人公達だった花神の家族達と広島のファミリーが邂逅し、辰波はゴムを失い追い詰められ、「女神の鬼」の舞台だった不良の枠からすらはみ出した鬼達を日本全国から集めた鎖国島へと逃亡する。
そこでは少年時代鬼だった者達も今や大人になり皆が働きながらまがりなりにも生活を営んでいた。
その中にはビースト時代の後輩もいたが昔とは違い蔑むような態度で接せられる。
島での暮らしを受け入れられない辰波は島の船を奪ってまたも逃亡する。
広島に戻った辰波が辿り着いたのは昔金次郎と初めて出会ったカップうどんの自販機の前で…。
どれだけ奪っても飢えがなくならない辰波の渇いた飢えは果たして?
終盤は闇バイト事件が決着ファミリーを今度はコロナ禍がファミリーを襲う。
昨日迄当たり前のように会っていたファミリーのメンバー達も感染対策の為会えない日々が始まる。
それだけでなくこれまで経験した事のない未曾有のパンデミックによって出口の見えない不安を抱える街の人々にとって不良上がりが揃い大人数のファミリーはかっこうの標的となりファミリーの関係者が経営する店は心ない噂や中傷に曝され飲食店等は厳しい状況に陥るが、その一方で人々が巣籠もり生活を強いられる事で逆に忙しくなる商売もあり、苦境を助け合っていた。
コロナが終息し、以前のように人々が街を行き交うようになった頃、かねてから親睦を深めようと考えていた広島のファミリーと花神のファミリーが広島で再会し大団円を迎える。

↑広島のファミリー

↑花神の家族

↑広島のファミリーと花神の家 族の母達

↑両ファミリーの若者世代の女達
う~ん、これはね~、田中宏の不良ものをずっと読んできた自分にとっては感慨深い作品なんだけど、これだけを単一作品として読んでも登場人物は多いし彼らの過去や人間関係が複雑過ぎておもしろさがわからないと思うのであまりお奨めはできないかなあ。
主人公の久司も早い段階で死んじゃうし…。
そのあとまさかのオバケになってストーリーテラーとして活躍するんだけどね。
で、ストーリーもかなりリアルな部分がありその分描写的にもかなりエグいところもあるのでそういうのが苦手な方には無理かも。
自分的には不良のカッコよさだけでなく狡猾さや醜さ、弱さ迄を描いたリアルさが好きなんだけどね。
不良ものが嫌いでないなら連載順でなく世代順に読むのをお勧めしたい。
各作品を読むと当時の不良の流行りがわかったりなかには懐かしいと感じる人もいるかも。
参考までに世代順に並べると
「女神の鬼」(全29巻)

「BADBOYS」(全22巻)

「バッドボーイズ グレアー」 (全16巻)

「莫逆家族」(全11巻)

「グレアー」と「莫逆」は時代的にはそれほどに変わらないが主人公が少年か大人になった元不良かで大きな差がある。
この後にこの「キッポ」と続くのでもし興味を持った方がいたら通して読んでみてほしい。
この田中宏がやった描きかたでデビュー当時新しかった手法がある。
それまでマンガのセリフといえば標準語が大半で他に使われてたのはせいぜい関西弁くらいだった。
そこに広島弁を持ち込んだのが田中宏だった。
なんでもそうだが新しい事を初めてやるのは容易な事ではない。
そこにはどうしてもこれまでの定石が存在したであろうしその壁を破るのは簡単な事じゃなかっただろうと思う。
田中宏は広島出身なので当たり前のように使っている言葉でも、それ以外の地域の読者には伝わりにくい言葉もあるだろうし、かといって標準語に寄せれば田中宏の地元愛を妥協しなきゃならなくなるしで内心結構鬩ぎ合いがあったんじゃないかと勝手に思っている。
そして田中宏がそれまで使われてこなかったその地方特有の言葉であってもそのマンガがおもしろければ読者に受け入れられるという事を証明したからこそ現在では当たり前のようにその舞台になっている地域の言葉を使うマンガが認められるようになったのだと思っている。
そういう意味で田中宏は方言を使うマンガの先駆者だと思っている。
また今の青年マンガでは必要以上に残虐なシーンを描き、それを売りにしてるように見受けられる作品も結構あるが、田中作品の場合残虐な描写をリアルさを感じさせる為の手段として使い、必要最低限の表現に留めているのがわかるのであえて残虐ではなくエグいという書き方をさせてもらった。
この「キッポ」で田中宏のひとつの長い旅が終わった。
次にどんな物を描くのかな?と思っていたら再び「BADBOYS 」を描くという。
自分としてはこれは残念でならない。
描きたいものを描き尽くしたたから終わらせたであろう作品を再び掘り起こすというのは自分としては不毛な作業であの時あの年齢だから描けた物を現在の年齢になって描いても単なる焼き直しにしかならないだろうと思っている。
できれば違う題材、まったく違う作品を描いてほしかったと思っている。
とにもかくにもこれまで連綿と受け継がれてきた一連の作品群が終わりを迎えた事を素直に喜びたい