「荒くれKNIGHT黒い残響完結編」は全20巻完結。
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このマンガには本編もあるが、今回読んだ「完結編」は本編のキャラクター達の一世代前が描かれているので、本編のラストシリーズ、「黒い残響」を読めばわりとすんなり入っていけると思う。

本編の主人公・善波七一十が
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リーダーの輪蛇は湘南の有名なチームとして憧れと恐れをもたれている。
そのライバル的な存在として登場した「虎武羅」の歴史を軸に描いたのが今回読んだ「完結編」である。

コブラ、COBRA、虎武羅―。
表記がどう変わろうとこのチームがぶれる事はない。
輪蛇とコブラは誕生のしかたは違うが、同じ「がらがら蛇」というひとつのチームから生まれた。

がらがら蛇は、湘南の同じ施設で育った赤蛇(内海マコト)
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と青蛇(足立)
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が作ったチームで、二人に魅かれた悪党達が集い、暴力と謀略という毒を撒き散らしながら南関東を制圧した。

どの時代にも、悪党に憧れながら悪党になりきれない男達がいる。
コブラはがらがら蛇が南関東を制圧する中、湘南のそういう弱虫達が集まり、がらがら蛇の使い走りチームとして生まれた。
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南関東を制圧後、目的を失ったがらがら蛇はその特性から猛毒を内部に吐き出すようになる。
青蛇がチームの実権を握るとそれはより顕著になり、裏切りや謀略による仲間同士の抗争に明け暮れ、身内同士で疑心暗鬼に駆られ内側から腐り始めていった。
そんな日々に疲れていた頃、赤蛇はリンダというひとりの少女ととの出会いによって、初めて涙を知る。
そしてある夜、赤蛇を慕う仲間を連れてがらがら蛇を割り、バイクで鎌倉の山を駆け下りた。
これが輪蛇の誕生である。
これ以後、輪蛇は一年戦争と呼ばれるがらがら蛇との分裂抗争を繰り広げ、がらがら蛇を潰滅させ、一応の決着をみるが輪蛇を怨む残党は残り、これは本編で「横須賀夜光蟲」となり、三代目リーダーの善波と足立との決着まで持ち越される事になる。

「完結編」の主人公・大鳥が160331_135057.jpg
用心棒をしてるコブラは、がらがら蛇がなくなった事で表に出る機会を伺うが、輪蛇の新入り
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にすらバカにされる日々を過ごす。

しかし弱虫達の中にも牙を隠してる者がおり、この男・根岸(ネギ先輩)
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は優しいながらも、壊し屋として非情さしか持ってなかった大鳥に優しさという強さと友達という存在を教えた。
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ネギらが引退した後、大鳥は輪蛇も赤蛇ら初代が引退し、二代目リーダーとなった木原篤
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との縁から輪蛇入りを誘われるが、この頃がらがら蛇の残党がコブラを裏で操り、輪蛇潰しを画策していた。
大鳥の輪蛇入りの日、がらがら蛇に操られる事を拒むコブラは大鳥を送り出した後、がらがら蛇の残党との決戦に臨む。
残党はたった3人だが、不良としてのレベルがコブラと段違いである事を知る大鳥は輪蛇入りよりコブラを助ける道を選び、がらがら蛇残党を蹴散らす。

コブラの二代目リーダーとなった大鳥はこの後、木原の輪蛇と凌ぎを削り合いながら輪蛇と並ぶチームになっていく。
輪蛇の仕掛けた網にひっかからない、がらがら蛇の四天王と呼ばれる幹部達がなぜか大鳥とは絡む。

一度は沈んだ青蛇が覚醒し、最後の四天王を使って大鳥コブラを飲み込もうとするが、大鳥を守ろうとするコブラメンバー達によって大鳥は生き残る。

大鳥の最後に戦った相手は輪蛇の木原で、これは身体をぶつけ合うタイマンではなくリーダーとしての器量を示す会話の中で行われた。

最後は本編のエピソードとリンクする大鳥の事故による引退と、それまで本物に憧れ輪蛇に入りたがっていた、本編で善波のライバルとなる伊武
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と大鳥との出会いが描かれ、さらに新たな世代交代の時期を迎え、大鳥に似た雰囲気をもちながら、まだ小悪党の西脇
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が大鳥の残したものを三代目虎武羅の幹部から聞き、ライバル視する春間が
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善波を通して見続けてきたものを感じ取り、帰り道、初めて本当の拳を握った時、二代目コブラを支えたメンバーの幻が笑みを浮かべながら井脇の横を通り過ぎていく。
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最後は善波と伊武のいつものじゃれあいで終わる。

このマンガを描いた吉田聡は前に描いた「湘南爆走族」shobaku320x178.jpg
もそうだったが、主人公と同じようにライバル的なキャラクターはもちろん、そのチームの背景も丁寧に描いてきた。
このマンガはそのひとつの集大成となっている印象を受けた。

この「完結編」には本編と違い、大鳥をはじめイケメン的なキャラはほとんど登場しない。
ラストに書かれている、
「歴史に名前の残らない、すべての“名も無きヒーロー達”にこの物語を捧ぐ。」
この言葉通り大鳥と戦い、敗れた者達が大鳥に惚れ、大鳥を支え、そして大鳥を守るために消えていく物語である。

主人公の大鳥自体、見た目はデブな不格好なキャラで、輪蛇のメンバー達に比べると見劣りする。
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しかし、この大鳥だからこそ物語が引き立つのである。

大鳥のコブラを支えたメンバーには輪蛇に入れるほどの悪党はいないように見えるが、輪蛇に一歩も退かない隠れた猛者が揃っていた。

そんなチームだからこそ、輪蛇の網に引っ掛からないがらがら蛇四天王までも引き寄せたのだろう。

このマンガでは、大鳥の戦いだけでなく、輪蛇の二代目となった木原とのライバル関係が描かれていた。
もとは同じ一匹狼だった二人が互いにチームのリーダーとなり、それぞれの生き方をしていく。
それはリーダーの選択としてはどちらも間違いではなく、輪蛇を守る為、ワンマン体制を敷き、場合によっては友達や仲間すら切り捨てる木原と、コブラと戦った後、すべてを失った敵だった者達を受け入れた大鳥。

この違いはチームを守る為、誰にも相談せずひとりで考え行動し続け、やがて自分を見失い、気づかぬうちに輪蛇をがらがら蛇の時代に戻しそうになる木原と、本編の夜光蟲の前身、最後の四天王・二道が率いる「蟲」との戦いでコブラを支えた仲間をすべて失いながら、役目を果たせる時間を作ってくれた仲間がいた大鳥との違いとなる。

消えたすべての仲間達の雰囲気を纏った伊武
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に自分なりの本物の意味を伝えた後、大鳥は木原に自分が持っていて、今の木原に欠けているものを渡しにいく。
それは、木原が忘れかけていた、
「リーダーが怒れば仲間は憎しみのコブシを握り、リーダーが笑えば仲間は明日を見つける」
という赤蛇の教えだった。そして大鳥は言う。
「オレの仲間は笑っていた…最後までな。 オレは…愛されていたんだ」と。

大鳥はライバル関係だからこそできる、「愛されるリーダー」の強さを渡したのだった。
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二人のライバル関係は大鳥の事故によって幕を下ろす。
身内以外入れないという病室で向き合い、ようやく自分の役目が終わるという大鳥に木原は、「オレがヤキモチを妬いた唯一の男」と認め、
「グッドファイト」
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と称えた。

「風に逆らうな」と教える輪蛇と「本物は探し続けるもの」と教えられるコブラは、その教えの性質上の違いから、横に並ぶ事はあっても互いに庇い合う仲ではない。

正直、今の若い人達には流行らない、泥臭いマンガだと思う。
しかし、自分としては等身大の男を描く素材として不良ものはなくなってほしくないジャンルである。

世間からはみ出た者達にもルールがあり、ふだん自分達をクズという彼らも、それすら守れない人間をクソといって蔑む。
そういうぎりぎりの世界だからこそ、男が男として磨かれ、花火のように散っていく様が儚く描かれるのだろう。

表舞台に名前を残す事もなく消えていった彼らの生き様から自分がなにかに夢中になりながら、思い通りにならず悩みながら過ごしていた熱い時代を思い出せるのではないだろうか?

余談だが、実はこれを書くのに半年かかった。
何度も書いては消すという作業を繰り返し、ようやく書き上げられた。
少しでも、そのてこずった感が伝わるだろうか?