母は認知症と診断されていて
そんな今は
ワタシのことも
わかっているか否か
不明です
ワタシや孫娘の名前を小さく
時折呼びますが
母の頭にあるワタシは
今目の前にいるワタシではないようです
今日がいつなのかとかも
わかりませんし
トイレも時々わかる程度
最近はめっきり
お話をしなくなりまして
目線も合いますし
笑ったりしますし
表情もあるのですが
掠れた声で
脈絡のない短い文節を
つぶやいて
あとは黙ってしまいます
母は頻繁に歩きたがります
どこにいくの
声を掛けても
顔を向けることもなく
どこかに向かってあてどなく
そろ
そろ
と歩いて
なんとなく戻ってきます
***
まだ少しはまとまった話をしていた
数年前はよく
「帰ろうよ」
自宅にいるのにふいにそう言うことがあり
お母さんここ家だよ
どこに帰るの
尋ねると黙ってしまいます
*****
ずいぶん前に
認知症対応を専門としている
友人に聞いたことがあります
認知症の人は
自分がいちばん輝いていたころに
記憶が戻っていることが多いよ
今 遠い記憶のその当時を生きている
男の人だったら会社で活躍していた頃とか
女の人だったら子育てしてた頃とか
だから
その頃のその人のことに関心を向けて
その頃のことをたくさん話せるように
会話するといい
それでますます認知症が進んだりはしない
今の自分が不安なんだ
自分は馬鹿にされてない
踏みにじられてないって
安心と
自信が必要なんだ
母のいちばん輝いていたころ
って
いつなんだろう
母がまだしっかりしていたころ
懐かしそうに
少し誇らしげに
いつも話していたのは
幼い頃からの苦労した生い立ちと
父と結婚するまでの紆余曲折
まだ話ができていた
6年前
2晩ほど
母とふたりで過ごしたことが
ありますが
ふたりで枕を並べながら
友人の言ってくれたように
母の言葉をずっと拾って
会話をしたことがあります
母が話して
ワタシは
それでどうしたの?
それはどうなったの?
どんな気持ちだったの?
誰がしてくれたの?
いつもそうなの?
そうだよね。
大変だったね。