そろそろ、品川駅に到着する。
 「おしゃべりしていると、早く感じるね。いつもは横浜駅までが、ずいぶんと長いんだけど・・・」
宏樹が嬉しい台詞を語る。
 「今みたいに、ひとりでしゃべってればいいのに」
 「そんな・・・、俺のファンが減っちゃうよ」
 「ファンがいるの?」
 「そう、犬や猫ばっかりだけど」
 「なぁんだ」
宏樹とずっと一緒に隣同士のシートに座って、話していたかったけれど、とうとう品川駅に到着してしまう。新幹線が乗り入れるようになってから、品川駅の混雑は増したようである。1年が始まったばかりの冬の寒い夜でも、人があふれている。京浜急行の改札まで、宏樹がエスコートしてくれる。
 「切符出して・・・。これは自動改札で渡していいけれど、このJRのは、駄目だよ」
宏樹が、手提げを「はい」と言って、私に手渡す。左手で受け取る。
 「どうも、ありがとう。きょう、来てよかった」
私は、右手を差し出して、握手を求める。宏樹は、
 「じゃ、気をつけてね」
と、強く私の手を握り返す。本当に、来てよかった。訪れるまでは、不安でいっぱいだった。私が素直に気持ちを伝えれば、何のことはない、宏樹も伝えてくれる。どうして今まで、好きだという気持ちを隠そうとしたのだろう。照れくさいのが一番の理由・・・。それに、私の心を重荷に感じられたら、寂しい。無理して、気を遣わせるなら、なおのこと、情けない。宏樹を振り返り、大きな声で「おやすみなさい」と言いながら、手を振る。私が歩き始めると、宏樹の声が聞こえる。
 「家に着いたら、どんなに遅くても電話しろよ」
私の声より、ずっと大きな声で叫んでいる。こんなに多くの人前で、いやね、恥ずかしくないのかな、と心配するくらい、大声が飛んでくる。振り向いて、手を大きく振る。宏樹の笑顔を見る。
 列車に揺られながら、宏樹とのドライブを思い出してみる。車の中じゃ、やっぱり嫌だった。そうよ、宏樹とシーツの海の中で、ゆっくり伸び伸びと泳ぎたい。今度、会うときかな。考えながら、顔がほてる。男性は、攻めるだけなのだと今まで、勘違いをしていた。男性も女の出方を待っているような気がする。そして、女の心をのぞいてから、男性は安心して、攻撃するのかもしれない。そんな漠然とした、おそらく答えなどない、あいまいなことをぼーっと私は、考えて列車の外の暗い風景を見る。