「担任か、本当に担任、決定なの?」
宏樹が心配して、私に尋ねる。
 「採用3年目は、誰でもそうみたい。生徒を科目授業で受け持つだけなら、自分なりに工夫してできるけれど、担任同士、比較されるから、それも大変なのよ」
 「比較すること自体が間違っているよ。だって、クラスは生徒が全然、違うのだから、比較なんてできないはずだろ?」
 「それを言えば、クラス平均点というのがそもそも意味をなさなくなるわね。全く違う、個性の生徒たちがテストを受けるのだから」
 「虎穴(こけつ)に入らずんば、虎子(こじ)を得ず・・・か?」
 「虎子なんか、いらな~い」
 「ははは」
私たちの相向かいの、前の座席に腰掛けていた3歳くらいの男の子が、親に連れられて電車から降りるときに、腕を上げて手を振る。私も同じように手を振り返す。ホームに降りた男の子は、また私たちを見て、さよならと手を振り返す。隣を見ると、なんと宏樹も釣られて手を男の子に振っている。
 「ヒロくんのイメージキャラクターが、狂うぞ。そんなヤワでしたか?」
 「真美ちゃんが子供に好かれる顔をしているから、こんな羽目になる」
 「私じゃないわよ、自分で気づいていないのは、お気の毒」
 「そうかぁ?」
 「そうよ」
 「それは、そうと、明日はまた仕事だなぁ」
 「早く、起きなくっちゃね、ヒロくんの美容に・・・悪影響でしたよね」
 「そうなんだけど、品川まで付き合うよ」
 「え~っ」
 「だって、定期があるから、このまま大丈夫なんだ」
私は、とても嬉しさを感じる。横浜駅まで一緒のつもりだったので、急にもっと長く一緒に宏樹といられると知り、幸せ気分になる。
 「しかし、俺の両親は、あほだからね、俺もあほになってしまった」
 「否定しない」
 「うっく。少しは否定してほしい」
 「ごめんね」
 「今度の土、日は連休なんだ」
こういう台詞を言われた直後の、私の反応はとんちんかんなことを口走ってしまう。宏樹の続く台詞を少し待ったほうがよいのかもしれないが、意地悪な、ちょっとからかってやろうとの気持ちが出てしまう。
 「じゃぁ、初日は眠って過ごすでしょ、2日目は散髪に1日、行くんでしょう?」
 「1日も行ってたら、俺、坊主になっちゃうよ」