1階の扉の外の風景が見えたので、反射的にエレベーターを2人で降りる。いたずらっ子のように宏樹が私の右手を握る。私は酔っているつもりはないが、やはり思考能力が多少、散漫になっている。今の瞬間が現実なのか幻想なのか、はっきりしない。アルコールを控え気味にしておいてよかった。あれ以上飲んだら、理性が失われてしまう。考えより、もう言葉が先に出てくる。
「あ、月だ」
「本当、満月だね」
宏樹が相槌を打つ。
「吠えたくなっちゃう」
私が、ジョークを言った方が2人の間がなごむような気がして、さらに話しかける。私を見下ろして、宏樹が笑顔で口を開く。
「家族でよく吠えてるんだろう、声が小さいって、怒られてるんじゃないの?」
まいったな、宏樹のほうが既に立ち直っているではないか。さっきのは何だったのだろう? 本当はまだ、心臓がドキドキしている。宏樹に悟られたくなくて、平気を装って話を続けているが、きっと言葉がないと脚の力が抜けて、道路に崩れ落ちる。目を閉じていたい。宏樹にもたれかかりたい。2人だけだったら、街中でなければどうなっていたのか。宏樹はふざけていただけなのか。あんな状況を経験しても、私はまだ宏樹の気持ちをよく理解していない。具体的に何も言われていないのが、本当に不安である。
「俺も中学生までは教師になりたかった。テストの採点したくて・・・」
宏樹は、難なく話題を変えている。私も、宏樹の横顔を見て、答える。
「でも今は、校内の定期試験でもマークシートだから、データカード入れて、コンピュータが採点しちゃうのよ」
「そうだろうね」
今までと同じように、おしゃべりをしながら新宿駅に入って行く。そろそろ夜9時近い。宏樹がつぶやく。
「正月の4日、仕事休みたいな、登社拒否」
「1月4日って、女性は晴れ着、着て来るの?」
「うん。ほとんど4日は仕事、しないからね」
「いいわね、うちの学校、元日に仕事あるのよ」
「え~!」
「新年祝賀式で、全校生徒が集まるの。すぐ終わるけどね」
「ふうん、元日にねえ」
「普通の日だって、休めないわよ。休みたいと思っても、やっぱり授業があると思うと」
「毎日、大抵、授業もっているの?」
「平均3、4時間はね」
「結構、あるんだね」
新宿駅の混雑は、治まることがないようだ。夜でも行き来する人が多く、手をつないでいても2人一緒になかなか思うように前へ進めない。
「あ、月だ」
「本当、満月だね」
宏樹が相槌を打つ。
「吠えたくなっちゃう」
私が、ジョークを言った方が2人の間がなごむような気がして、さらに話しかける。私を見下ろして、宏樹が笑顔で口を開く。
「家族でよく吠えてるんだろう、声が小さいって、怒られてるんじゃないの?」
まいったな、宏樹のほうが既に立ち直っているではないか。さっきのは何だったのだろう? 本当はまだ、心臓がドキドキしている。宏樹に悟られたくなくて、平気を装って話を続けているが、きっと言葉がないと脚の力が抜けて、道路に崩れ落ちる。目を閉じていたい。宏樹にもたれかかりたい。2人だけだったら、街中でなければどうなっていたのか。宏樹はふざけていただけなのか。あんな状況を経験しても、私はまだ宏樹の気持ちをよく理解していない。具体的に何も言われていないのが、本当に不安である。
「俺も中学生までは教師になりたかった。テストの採点したくて・・・」
宏樹は、難なく話題を変えている。私も、宏樹の横顔を見て、答える。
「でも今は、校内の定期試験でもマークシートだから、データカード入れて、コンピュータが採点しちゃうのよ」
「そうだろうね」
今までと同じように、おしゃべりをしながら新宿駅に入って行く。そろそろ夜9時近い。宏樹がつぶやく。
「正月の4日、仕事休みたいな、登社拒否」
「1月4日って、女性は晴れ着、着て来るの?」
「うん。ほとんど4日は仕事、しないからね」
「いいわね、うちの学校、元日に仕事あるのよ」
「え~!」
「新年祝賀式で、全校生徒が集まるの。すぐ終わるけどね」
「ふうん、元日にねえ」
「普通の日だって、休めないわよ。休みたいと思っても、やっぱり授業があると思うと」
「毎日、大抵、授業もっているの?」
「平均3、4時間はね」
「結構、あるんだね」
新宿駅の混雑は、治まることがないようだ。夜でも行き来する人が多く、手をつないでいても2人一緒になかなか思うように前へ進めない。