少し、酔った。きょうは、平凡な日常生活とかけ離れた場面をたくさん味わっている。毎日が、つまらないとは言えないが、まれに時計の針が貼りついたように動かず、時が過ぎるのが遅く感じてしまう。こうして、宏樹と食事したことを、明日はきっと私は校舎の中で昼食時に思い出すだろう。仕事に満足していないのだろうか。そんなことはない。先輩教師に負けたくないと、自分なりの教材研究に、精を出している。授業を工夫し、生徒に飽きられない一風変わった時間を提供したいと心がける。もちろん生徒に慕われたいし、学年主任や教務担当にも認められたい。
 それなのに、心が満たされず、何か足りないと思うのはどうしてか。きょうは、1日ずっと楽しい。めったにない珍しいことばかり起こるからなのか。毎日、宏樹と会えば、やはり時々退屈するのだろうか。それは違う。宏樹を好きな理由は、刺激や影響を受ける人だから。一緒に空間を共有するのが嬉しい。宏樹といると心が弾む。宏樹が私のために語っている。きょうが終わらなければいいのに。
 「姉貴の赤ん坊の名前、生まれる前からもう決まっているんだ」
 「何ていうの?」
 「男だったらタツヤ。女ならチヒロ」
 「どういう字?」
 「タツは達する。ヤはなり(也)。チヒロは数字の千に、広い」
 「どうして? 親から一字もらうとか?」
 「違う。さあ?・・・字画がいいんじゃないかな」
 「ふうん」
私は、相槌を打ちながら、宏樹の後ろにあるボックステーブルに4人の園児がいるのを見る。
 「ねえ、後ろ、4人も男の子がいるわよ」
宏樹が振り返って、後ろを観察する。
 「1人は、女の子だよ。それに全部親が違うよ」
 「ああ、そう・・・っか」
すぐ隣のテーブルに2人の母親が見つかる。宏樹のとっさの判断力は大したものだ。感心する。普段、私はまったくアルコールを口にしないので、シャンペンごときで、もう頭がぼおっとしてくる。
 「ねぇ、ボーナスってどのくらいもらえるの? 2点いくつ?」
一般企業のサラリーマンはどうなのだろうと、聞きたくなり、酒の力も借り、ずうずうしくも聞いてみる。
 「ううん、3.5」
 「えっ、すごいわね。私、2.5」
 「公務員と同じだからだろ?」
 「1カ月分のお給料分も差があるのね」
 「今は、建築業界は、不景気だから少ない方なんだよ」
 「そうなの」
サラダがテーブルに届き、レタスとキャベツをサクサク音を立て、仲良く食べる。