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 今、来た道をまた大佛次郎記念館の方向に戻る。イギリス館近くのバス停で、ブルーラインの来るのを待つ。列の前には、5人しかいないので、
 「確実に、2階席に座れるよ」
と宏樹は言う。目の前にいるのは子供連れの若夫婦である。ご主人のセーターの後ろにゴミがついていたので、そっと取り除いてあげる。
 「こら、何してるの?」
宏樹は私の左ほおを、殴る真似をする。
 「しっ!」
前の人たちに聞かれたらマズいので、私は、必死で知らんふりを装う。花壇が等間隔に置かれ、いくつも手入れされている。スケートボードをするのにはよさそうな道路環境である。ブルーラインがやって来る。バスの後部には、「市営」の表示が見える。階段を昇って2階に上がる。
 「レントゲン車みたいよね」
素直な私の感想を伝える。前から2列目の席が空いているので、2人で腰を降ろす。宏樹は私を窓際に掛けさせてくれる。
 「わぁ、動いた、感動」
動き出したので、思わず口走る。
 「そりゃ、動くでしょ。まさか空を飛べっていうのは、無理な相談だぞ」
しばらくすると、車内放送で、
 「料金をお支払いでない6歳以下のお子様は、ひざの上にお乗せください」
との指示がある。
 「ここに、乗る?」
言うだろうな、と思っていると、案の定、宏樹はジョークで自分のひざを指差す。
 「私は、料金を払いましたっ」
マリンタワーの前の道を行く。2階建てバスなんて、それほど珍しくもないだろうとは思うが、観光客にしてみれば、絶好の眺めである。歩道からジロジロと2階席を見上げている人たちがいる。
 「こちらを見られているわね。見世物よ」
宏樹も笑っている。神奈川県庁のそばを通り抜ける。
 「もう少し行くと、勤め先の支社があるんだ」
宏樹のガイド付きである。
 「えっ」
 「あのグレーの建物だよ」
 「あれ?」
 「そう」
 「本当ね。会社名、読めました」
私が拍手して喜びを表現すると、宏樹も釣られて喝采する。
 「勤めるのに、ここ横浜だったら、近かったのにね」
 「家からあまり近いと遊べないから、つまらないよ」